大航海時代入門 ――冒険者(バンガリャン)の定義と心得
大航海時代入門 ――冒険者の定義と心得
星図にない領域を目指す大航海時代の到来は、巨大な母艦に縛られない自由な翼、すなわち中型以下の飛空艇への需要を爆発的に増大させた。
この潮流は造船技術に革命をもたらし、エネルギー効率の劇的な改善へと繋がる。結果として、個人や数人で操縦を行う小規模な宇宙船が、
かつての限界を超え、宇宙の深淵を独行できるだけの、長大な航続能力を獲得するに至ったのである。
こうした時勢のあだ花として生まれ落ちた者たち、それこそが有人星系の共通語において「バンガリャン」と総称される冒険者たちだ。
この「バンガリャン」という語を当時の社会通念に照らして厳密に検証すれば、
その原義は「素性の知れぬ流れ者」あるいは「ならずものとしての色合いを帯びた旅人」といったところにある。こ
の概念を地球圏の歴史的文脈に置き換えるならば、「浪人」という語がより適切な訳語となるだろう。
しかし、彼らが後に獲得する実像、その血なまぐさい生態までをも包括して表現するならば、ラテン語に由来する「ラプター」こそが、唯一無二の訳語となる。
飛空艇という翼を駆り、天空を支配する「猛禽」としての一面。
そして、地上戦において発揮される「小型肉食恐竜」のごとき、狡知に長けた連携と獰猛さ。
天と地、双方の領域における捕食者としての性質を、この一語だけが余すところなく包含しているからだ。
黎明期のバンガリャンは、決して子供に読み聞かせるべき冒険譚の英雄などではなかった。
大半は軍歴を持たず、正規軍が運用するような洗練された装備など望むべくもなかった。
治安維持者、船乗り、調停者、探検家、あるいは悪党としてさえも半端者でしかない。既存の秩序をかき乱すだけの狂人と断じられた彼らは、
蔑みと侮りの視線に晒されていた。不当な逮捕や理不尽な投石すら甘受せざるを得ない、まさに社会の鼻つまみ者だったのである。
だからこそ、彼らは裏路地の工房に潜り、試行錯誤の果てに廃材を繋ぎ合わせた安価なパワードスーツを身に纏うしかなかった。
手にするのは、信頼性よりも威力を優先した危うい改造銃。
極端な例では冤罪の死刑囚だったり、何の変哲もないパン屋であったりもする、それぞれの前職で培ったスキルを総動員し、
彼らは、型落ちの飛空艇で“空気ある虚空”へと躍り出たのである。
バンガリャンの血管に流れる狂気は、やがて有人星系の全域へ伝播し、無数の逸話を産み落とすことになる。
この宇宙において最も命知らずで、枷を持たぬ自由な魂。彼らが操る船の舳先が向く先は、大きく2つに分かたれた。
ひとつは、既存の星図が途切れた先。未踏のロマンと死の危険が背中合わせに眠る、深遠なる「外側世界」。
もうひとつは、欲望と策謀が複雑に絡み合い、一攫千金と下克上の機会が渦巻く、文明圏の「内側世界」。
正規軍が尻込みする危険地帯を突き進み、あるいは厳重な警備網を嘲笑うかのようにすり抜ける。
これら無軌道な航跡の集積こそが、膠着していた時代の地図を強引に書き換え、世界の輪郭を拡張していくのである。




