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外伝第三話 高級タワーマンションの呪い 中編

第三章:死者の楽園


六本木の喧騒から僅かに離れた高級タワーマンション「エリュシオン・タワー」。

ガラス張りの外壁が、太陽の光を反射して美しくきらめく。


しかしその威容は、どこか巨大な墓標のように冷たく、無機質にそびえ立っていた。

5人はその前に立っていた。


「エリュシオン…死者の楽園の名じゃの。不穏な名前を付けよるわい」


静かに呟く屋島に、辻村が顔をしかめる。

「ジジイ、気味の悪い事言うんじゃねーよ!普通にタワマンの名前だと思ってたぜ」


真琴が周りを見回しながら首を傾げる。

「確かに、呪詛の気配は一切ないわね…。岸本はどう?」


「怪異の気配も全く感じられない。予備調査の通りだな」


「だからこその長期調査だ。念の為、偽造の免許証などを用意させた。我々は親族という事にしてある…調査機器なども、引っ越しを装い運び込む」

ヴィクトルが淡々と告げる。

引っ越し業者のトラックが到着し、次々と部屋へ荷物を運んでいく。

部屋はここの30階との事だ。


エリュシオン・タワーのロビーは、豪華な大理石の床にシャンデリアの光が反射し、さながら高級ホテルのロビーのようだった。

しかし空気は妙に静まり返り、足音が響くたびに微かな反響が返ってくる。


岸本たちがエレベーターに乗り込むと、手前にいた入居者が開閉ボタンを押して待ってくれていた。

柔和な顔つきの、中年女性。

岸本たちが持っている段ボール箱を見て、話しかけて来た。

「あら…もしかして新しく引っ越されたの?ここは素敵よ、きっと気に入ると思うわ」


「ロビーからして、豪華ですもんね。設備も凄そうだし、今から楽しみですよ」

岸本が、当たり障りのない会話をしているうちに、30階へと着く。軽く会釈をしつつ、エレベーターを降りた。


到着した部屋は、正に豪奢そのものだった。

洗練されたリビングに、大理石をあしらったキッチン。

広々としたベッドルーム。

遠くには六本木のビル群が見え、景色が一望できる大きな窓と、バルコニーが並ぶ。


「すごい! こんな所に住めるなんて夢みたいだね!」

真琴が目を輝かせ、部屋を駆け回る。

「おいおい、眺めもすげえな、六本木の街並みが一望出来るぜ!」

辻村がバルコニーから身を乗り出す。


ヴィクトルが淡々と機器を設置し始める。

「生体エネルギー検知器、電磁波センサー、呪詛・怪異探知機…設置完了、機器の動作、全て正常」


岸本は皆を見ながらソファに座り、煙草に火をつける。

「本当に、これで何もなければ最高なんだろうけどな…」


しかしそんな危惧とは裏腹に、平穏な日々が続いた。


真琴はラウンジでお菓子とお茶を楽しみ、辻村はジムで汗を流す。

屋島はライブラリーで、静かに読書を嗜んでいた。

ヴィクトルは機器のデータ観測に余念がない。


「みんなバラバラに楽しんでるみたいだけど、こんなのんびりしてて大丈夫なのかよ…?」


不安を抱く岸本に、屋島が穏やかに応える。

「ずっと警戒してたら身体が持たんじゃろ?適度に楽しむ位が丁度良いんじゃ…それに儂らは、いつもこれで繋がっておる」


懐から、紙で出来た人型…依代を取り出す。

「呪詛の気配が僅かでもあれば、瞬時に意思が全員に伝わる。その為には、それぞれが離れて行動する方が効率的なんじゃよ」


10日が過ぎようとした頃、ふいにマンションの空気が歪に感じられた。

微かに力が抜けるような…それでいて、不気味な恍惚感を伴うような…。

岸本が部屋に戻る途中、先日会った中年女性と出会った。


「あら、あなた先日の…どう?このマンション、気に入られた?」


「はい、豪華で快適ですし…でも、今日は変な気が」

「良かったわぁ。ここに住めば、永遠に幸せになれるのよ…もうすぐ皆で1つになれるわね」

言葉を遮った女性の顔には、張り付いたような不気味な笑みが浮かんでいた。


岸本が急いで部屋に戻ると、既に皆がリビングに揃っていた。

今までの弛緩した空気は微塵もなく、張り詰めた気配が部屋全体を覆っている。

窓から差し込む夕陽が、埃の粒子を赤く染め、室内に不気味な静けさを落としていた。


「岸本も戻ったか…。急に妙な気配が漂いやがったぜ」

辻村の軽口は鳴りを潜め、目だけが鋭く光っていた。


「ライブラリーにいた入居者たちの様子も、おかしくなりおった。突然【救い】やら【永遠の命】やらと言い出しおる」

屋島の顔の皺が深く刻まれ、老いた瞳に静かな怒りが宿る。


「私の行ってたラウンジの方もよ…。ヴィクトル、機器の数値はどう?」

真琴は冷静さを保ちつつ、ヴィクトルに問う。


ヴィクトルは機器を操作しながら、淡々と答える。

「30分程前から僅かな異常値が検出されているが、微弱で発生源は不明。現在、正常値に戻りつつある。短期間の予備調査では分からなかったわけだ」


「…一度マンションを離れ、売主の久遠エステートなど、徹底的に調べる必要がありそうじゃな」

屋島の低く抑えた声が、静寂を破った。皆、無言で頷く。


窓の外を吹き抜ける秋風が、カーテンを揺らし、冷たく部屋に忍び込んだ。


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