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外伝第一話 大好きスタンプの呪い 中編

第一話中編です。

いよいよ、スタンプの発信元に岸本たちが辿り着き、バトルが始まります。どうぞお楽しみ下さい。

大崎市は、かつては高度経済成長時代、郊外型の市街地「ニュータウン」構想により栄えた街だが、現在は高齢化が進み、廃ビルや廃団地が林立するゴーストタウンと化していた。


夜の山道を抜け、やがて廃マンション『エスポワール大崎』が姿を現した。

外壁は苔と錆に覆われ、枯れた蔦が絡まり合っている。

辺りは漆黒の闇に覆われているが、一部屋だけ、微かな灯りがゆらゆらと妖しく揺れていた。


「!…一つだけ、灯りが付いてるようじゃの」

「間違いねぇ、ここだな……」

辻村が呟くと同時に、四人のスマホが震えた。


ぴこん。

「【ゆめみちゃん】から新着メッセージがあります」

ゆめみちゃん

いっしょに遊ぼ。もう、すぐそこだよ♡


「きめえ…こんな呪詛、初めてだぜ」

スマホを見る辻村の顔が、嫌悪感で歪む。


エレベーターは遥か昔に錆付き、沈黙を保っている。

非常階段を昇る足音だけが、カン、カン、カンと虚しく響く。

五階に辿り着いた瞬間、空気が甘ったるく重くなった。

劣化した綿の黴臭さと、腐りかけた菓子が混ざったような不快な臭い。


「…この扉の向こうで、間違いないわね。腐臭と邪気が溢れ出してるわ」


「そのようだな…奥から怪異の気配も感じる。さっきの【ゆめみちゃん】と同じ気配だ」


岸本と真琴が、顔を見合わせる。

辻村と屋島の顔にも、僅かな緊張が浮かぶ。



突如、ゆっくりと扉が開かれた。

部屋いっぱいに積まれた、古びたぬいぐるみ…。

スタンプと同じ、くまちょこ、うさみみ、ゆめみちゃん。

子どもの笑い声が、部屋中に不気味に響き渡る。


四人が部屋に入った刹那。

部屋の中央から、ぬいぐるみの山がゆっくりと崩れ始めた。

ゴロゴロと小さな音を立てて転がるぬいぐるみたちの間から、人間の背丈ほどの、ふわふわしたクマのぬいぐるみーー大きな「くまちょこ」が立っていた。

ピンクの耳に、くりくりした黒い瞳。『大好きスタンプ』の通りだ。


「ママが……だっこしてあげる……♡」

くまちょこの声は、囁きのように甘く響いた。

ふわふわの腕を広げ、ゆっくりと四人に近づいてくる。

その動きは、友達を誘う無邪気な子供のようだった。


「一緒に遊ぼう……ゆめみと、くまちょこと……遊ぼうよ……♡」


真琴が風の双剣を構えた。

「遊ぶって…何よこのクマ!」


辻村が炎刃を握りしめ、前に出る。

「気持ち悪ぃな……! 一緒に遊ぼうって、抱きついてくる気かよ!」


屋島が静かに氷の注連縄を展開し、くまちょこを絡め取る。

「まずは様子見じゃの……」


くまちょこは止まらない。

氷の注連縄を、ふわふわの体で引き千切ろうとする。

「遊ぼう……遊ぼう……♡」


辻村の瞳に、炎のような殺気が宿る。

ズシャッ!

炎刃が一閃すると、くまちょこの身体がバラバラに切り裂かれ燃え上がる。

一瞬の間に、音速を遥かに超える無数の斬撃を叩き込んでいたのだ。


「相手が呪詛と分かると、途端にノリノリじゃのぅ」

「うるせーよ!幽霊は呪詛と違って理屈が通じねえから怖いだけだっ!」


だが、バラバラになった体が震え、綿が逆流するように戻っていく。

ゆめみの声が、頭の中に直接響いた。

(いっしょに遊ばないの……? なんでママいじめるの……!)

ゆめみの声。

悲しみと怒りが混じった、幼い泣き声。


みるみる内に、くまちょこの体が膨張し始める。

綿が無限に増殖し、体高が三メートル、四メートルと巨大化していき、天井を突き破る。


小さな瞳が血走り、口が耳まで裂け、牙のようなものが覗く。

天井の崩落と共に、巨大化したくまちょこの腕が振り下ろされた。


ガインッ!

屋島が指を一本動かしただけで、部屋全体の温度が急降下し、分厚い氷の結界が顕現した。

「ふう、危機一髪じゃの…しかし、年寄りは敬うもんじゃぞ」

衝撃波が部屋を震わせ、ぬいぐるみの山が崩れ落ちる。


「助かったぜジジイ!真琴、同時に叩くぞ!」

「了解!一気に行くわよ!」


ゴオオオオッ!!

真琴の風の刃がくまちょこの全身を切り裂き、次いで辻村の炎柱が、巨躯の全てを焼き尽くした。


「これでどうだっ!!」

だが、灰になった体が、再び綿を噴き出して再生する。

体は更に膨張を繰り返し、血の涙を流しながら咆哮を上げる。


「ママが……だっこしてあげる……♡」

巨大な腕が、真琴たちを押しつぶす勢いで降りてくる。


「おいおいマジかよ…!どうすりゃ倒せんだ!? こんな呪詛、見たことねぇぞっ!」

超音速の斬撃を繰り出しつつも、辻村の顔に僅かな焦りが見える。


(…ママをイジメないで……!)

また、頭に声が流れ込む。


「……長く呪滅師をやってる儂でも初めて見るわい。もしかすると、声の主……怪異となったお嬢ちゃんが呪詛を操っているのかもしれんの」


「呪詛を操る怪異って事? 新しい【変異体】って事ね……それなら、源を絶たないときりが無いわ」


三人が振り返り、同時に岸本を見る。

「……そういう事なら、俺に任せてくれ。行ってくるぞ、相棒!」

真琴は黙って頷く。その瞳には、岸本への信頼が映っていた。


屋島の氷の結界がくまちょこの攻撃を阻み、奥へと続く道を作る。

「岸本くん、頼んだぞ……怪異を払えるのは君だけじゃ」


岸本は氷の結界を突き抜け、最奥の部屋へ走る。

勢いよく扉を開けた。

真琴たちが苦戦する中、岸本がゆめみの怪異と対峙します。果たして決着は!?


明日20時頃、後編をお届けします。

引き続き、後編をお楽しみ下さい。


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