第2章 機密情報 3
数日後。
ニュース速報の赤い帯が、和臣のスマホ画面を横切った。
〈首相、衆議院解散を表明〉
〈総選挙へ “責任ある対外政策”を訴え〉
〈外国人受け入れの抑制を柱に〉
和臣は、その言葉を無意識に口の中でなぞった。
「責任ある…対外政策……」
テレビでコメンテーターが熱を帯びた声で語る。
「日本の秩序を取り戻す政治こそ、今必要なんです!無秩序な外国人流入が国を壊しているんです!」
それをを押し返すように、ひとりの専門家が控えめに口を開いた。
「ただ、外国人が本当に“無秩序”を招いているのかは、データ的に慎重な検討が必要じゃないでしょうか」
その言葉は、別のタレントの勢いに遮られた。
「いや、現実を見ない"きれいごと"はもう通用しないんですよ!」
声量の差は歴然だった。
テレビの音量を上げなくても、熱狂の方だけが耳に残った。
そして、SNSも相変わらず、炎と憎悪の渦だった。
和臣が上げた煽り気味の動画も、日増しに拡散している。
(僕が広めている……僕の言葉が、誰かを動かしている)
胸が熱くなる。
だがコメント欄には、少しだけこんな声もあった。
《外国人が全部悪いわけじゃないでしょ》
《冷静になろうよ。事実と感情をごっちゃにしてる》
しかしそれらは、次の瞬間には怒号や嘲笑の返信で押し流された。
《工作員乙》
《そういう甘さが日本を滅ぼすんだよ》
《黙ってろ、売国奴》
画面をスクロールするたび、弱々しい理性の声は海に沈む泡のように消えていく。
和臣は、そのわずかな「逆流」を読んだとき、胸に針のような痛みを感じた。
どこかのSNSにアップロードされた映像の中で、演説中の政治家が笑っていた。
満面の笑み。熱狂的な拍手。
そこに、和臣がかつて好きだった「正義」や「思いやり」の匂いは、もうどこにもない。
(でも……ミケさんは、きっと喜んでくれる)
選挙戦はすぐに熱を帯びた。
そんな中、駅前の掲示板に、ある中年女性が小さくつぶやいた手書きのメッセージが貼られていた。
《私には外国人の大切な友人がいます。どうかどうか憎まないでください。お願いします》
だが、その横にはすでに何枚もの大きなポスターが重ねられ、女性の小さな紙切れは半分以上隠れていた。
熱狂は、意見の大きさで真偽を決めていく。
静かな声は「存在しなかった」ことにされていく。
そして……開票速報が流れた。
与党は単独で安定多数を獲得し、ようやく長年の少数与党の状況を脱した。
〈外国人規制強化関連法、来月提出へ〉
〈治安回復と国民の生活を守るため〉
そのニュースが流れた夜、ミケからメッセージが届く。
《すごいよ!これから日本は変わっていくね》
画面の文字が、破裂しそうなほど眩しかった。
(ミケさん…見てくれてる。僕は、ちゃんと認められてるんだ……)
和臣の中で、甘い昂揚と得体の知れない怖さが、絡み合っていった。




