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騙し絵  作者: 星 則光
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第4章 政変 2

 蛍光灯が冷たく光る部屋で、二人は折りたたみ式の安い机をはさんで向かい合っていた。B中佐は、薄い笑みを浮かべた。その表情は明るさを装っていたが、瞳だけは冷たく澱んでいた。

「カタパルトの件は、岡田和臣だけではなく他のインフルエンサーなどにも我々から情報が渡った。最初のきっかけとしては、岡田和臣の動きは悪くなかった。ここまで来れば、我々の任務はもう成功したも同じだよ」中佐は無造作に手を振りながら言い、わざとらしく肩をすくめた。


「この任務が終われば、君も“佐官”の仲間入りかもしれないな。さすがはエリートだ。」

 ミケは返事を飲み込み、無意識に拳を握りしめた。耳が詰まるような沈黙の中、換気扇だけが単調に唸っている。その音が、胸の奥の緊張をさらに際立たせた。


「本国で何か動きがあった。そしてずっと緊張し続けていた“我々の海”に、ようやく我が海軍のフリゲートが入る」


 中佐は机に広げられた地図を指先で叩きながら続けた。

「海軍が根っからの腰抜けじゃなければ、近いうちに“何らかの()()()()()()”が起きるだろう」


 乾いた唇を湿らせ、ミケはやっと声を出した。

「では……岡田和臣は解放する、ということでいいですか?」

 その一言に、中佐の笑みがすっと消えた。

 代わりに現れたのは、底知れぬ闇のような眼差し。

「解放?」

 ゆっくりとした口調なのに、圧があった。

「確かに彼はもう我々の活動に必要はない。しかし……そのままにしておくわけにはいかんだろう」


 蛍光灯が一度、ジッと音を立てて瞬いた。

 ミケの背中に、冷たい汗が伝う。

「彼には、どこかに消えてもらうしかない」

 静かに言われたその言葉は、銃声より恐ろしく響いた。

「多少とは言え注目されている。日本国内では不都合だ。だから……」


 中佐はミケの顔に視線を固定し、獲物を追い詰める豹のような目で微笑んだ。

「君が連れ出せ。国境の外へ。スリランカが良いだろう。我々と親しい国だ。

 山岳地帯で事故が起きたことにすればいい」

 B中佐はまるで明日の天気の話でもするかのように言った。


 この会話は命令だった。ミケに拒否する権利など、最初から存在しない。

 ミケは食いしばった歯の奥に苦い鉄の味を感じながら、必死に呼吸を整えた。

 激しく打つ心臓の音だけが、自分がまだ人間であることを証明している。


 中佐はふと、机の端に置かれた分厚い封筒を指で叩いた。

「それにしても、日本の群衆というのは本当に扱いやすいな」

 中佐の声は淡々としていた。


「彼は、今窮地に落ち込んでいるんだろ?」B中佐はすべてを知っているかのように口を開いた。

「それを利用すれば、彼を海外に連れ出すことなんてたやすいだろう」

「いいな。必ず実行するんだ」


 B中佐は淡い光の下で、ゆっくりと言葉を区切った。

「君の将来は、この作戦の成功に……すべてかかっている」

 その瞬間、地下室の静寂が重力となってミケの肩にのしかかった。逃げ道のない闇の中、彼女はただ、無言で頷くしかなかった。


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