騙し絵

非正規雇用という不安定な立場の中で働く主人公・岡田和臣は、自尊心を満たしてくれる言葉と居場所をネットの世界に見出す。「国を守れ」「外国人はいらない」といった過激な言葉は、やがて彼自身の思考となり、現実社会での行動をも変えていくことになる。

そんな彼の前に、親身に寄り添う女性ミケが現れる。しかし彼女にはもうひとつの顔があった……。

信じていた言葉、守ろうとした正義、寄り添ってくれた存在――それらが音を立てて崩れ落ちるとき、和臣は自分が立っていた場所の危うさに初めて気づく。

憎しみや恐怖が拡散されていく構造の中で、人はどのように他者と向き合えるのか、信じるとは何かを静かに問いかける。

国家やイデオロギーという巨大な力に翻弄されながらも、なお人として誰かを思い、守ろうとする選択とは何なのか。

見る角度によって姿を変える「騙し絵」のように、真実と虚構が重なり合う世界で生きる私たち自身の姿を考えてみたい。