第四話:諜報的ユニット、カラス
「やってやるさ、世界征服を!」
ゼルはこの時軽い決意をした。だが、これはある二人の存在によって、簡単に切り裂かれてしまう。
《承知しました。現時点における、世界征服の第一歩として、我々の活動を邪魔する可能性のある存在を排除しましょう》
「邪魔する存在とはなんだ。それに、いちいちヴォルフで暴れてたら、すぐに俺たちの居場所がばれるだろ」
《その通りです。ヴォルフは破壊工作に特化したユニット。しかし、世界征服には諜報工作が必要不可欠です。》
アーシェの言葉に、ゼルはハッとする。
「なるほど……。だったら、ヴォルフとは別の機体を作るってことか?」
《はい。ナノ組立機構を使えば、新たなユニットを構築可能です。》
アーシェがホログラムに映し出した設計図を見て、俺は驚いた。それはヴォルフのような重厚な機体とは違い、流線型で細身の、まるで「忍者」のような機体だった。
「偵察・潜入ユニット──《カラス》?」
《カラスは、ヴォルフの資材の二分の一で構築可能。軽量化されているため、空中を長時間飛行でき、光学迷彩による隠密行動を得意とします。》
「おお! これなら、バレずに情報収集ができる! 面倒なことにも、あまり巻き込まれそうにはないな」
ゼルは目を輝かせた。
その日の夜、カラスを二台作り出し、王都へと潜入することを決める。
「わぁ! 新しい神様!」
「ユニットって言うんだ」
「へぇ! ゆにっと、ゆにっと!」
「で、アーシェ……なんでカラスを二台作ったんだ?」
《はい。》
「もう一台って誰の分だ?」
《リゼットの分です》
「待て待て待て!! リゼットも乗るのか! 六才だぞ!」
「?」
《リゼットに聞いてみて下さい。ユニットに乗ってみたいか》
「リゼット、お前ユニットに乗ってみたいか?」
「……いいの?」
「……」
《ゼル、彼女はとても乗りたそうにあなたを見つめて――》
「いいからそういうの! わかったわかった! じゃあリゼット、操作方法を教えてやる。来い」
「やったぁ!」リゼットは飛び跳ねながら喜んだ。
「――とまあこんな感じで、わかったか?」
「うん! これで私も神様!」
「これでみんなを救えるぞ!」
「うん。ありがとう!」
「じゃあアーシェ! 電源をオンに!」
「あーしぇ! 電源オン!」
《かしこまりました。》
「え! 今喋ったよ!」リゼットが目をキラキラさせて、こちらを見た。「神様だ!」
カラスの内部に光が灯った。
「おい、アーシェ。声はチップをした者にしか、聞こえないんじゃないのか?」
《私は今、このカラスというユニットと接続しているため、ユニット内であれば、自由に会話することが可能になります。》
「えらい便利だな! もしかして、ユニット内だったら自由に会話をすることができるのか?」
《私が変声機能を使い、他のユニット内へ伝えることは可能です》
「すごく便利だな!」
「うん! 便利!」
《では出発しましょう。王都へ》
「お、王都!?」
「おうとっ! おうとおー!」
《ゼル、王都にはこの世界で最も厄介な二人の内、一人がいます》
「いつか俺の前に立ちふさがる壁ってわけた」
《ええ、そうです》
「だから今のうちの叩いとこうって魂胆か!」
「私も頑張るよ!!」
《ここから王都まで、30分ほどでつきます。詳しい位置や方角はモニターでお伝えします》
*
好きなもの、好きな食べ物、いつかやりたいこと。をリゼットやアーシェと会話を弾ませ、30分はあっという間に過ぎていった。
《王都付近に着きました。》
「おうと! すごーい!」
「なんだこれ……えらい広いな!」
俺たちは王都を上空から見上げた。そこは六角形の城壁に囲まれた、城と町だった。
「六つの砦に、杖と弓をもった戦闘員たちがいる。これは潜入も難しいところだな」
《潜入方法を模索しています……》
「ねえゼル兄、これから王都に入って何をするの?」
「ゼル兄って……まあこれから悪いヤツを倒しに行くんだ」
「悪いやつ?」
「ああそうだ悪い敵。もしかしたら、本当にサイテーなヤツかもな」
まだ明確に敵とはわかっていないが。そうだ、話せばわかるやつかもしれない。
《説明します。敵は勇者、そして今回の目的は勇者を絶命させる、または行動不能にさせるということです》
「はぁ? 勇者? たしかにアライト国内でも、勇者の噂は聞いたことがある。でもそいつ、ゲームとか漫画とかに出てくるようなヒーローだろ? ヒーローなら話し合いでどうにかなるはずだ」
《……話し合いでどうにかなる可能性 0% です。彼はあなたと同じ目的ですから》
「っ! でも、最終的な目的は同じかもしれない。だから会話で――」
《だめな理由はリゼットが最もよく知っていると思われます》
「私……?」
「どういうことだ」
《……説明する時間は取れません。ではお伝えします。潜入方法と――彼の最強の能力を……》