禁則
ここは薄暗いけど、解る
外は雨が降っている
僕は、雨が屋根を叩く音が嫌いじゃなかった
「素直になれよ」
「ルールなんか守る事に熱心になって、それで幸せになったやつなんて視たことないよ」
顎に回した僕の指を払い除けると、君は眼鏡を直しながら法典を参照した
「そうは言うけど」
「ほら、ここの項目」
「君の教唆に従った場合、その内容に関わらず罰則が存在する」
「まして、君の話す内容は常に違法なものだ」
「じゃあさ」
言いながら、僕は君の光輪を片手で握る
法典が床にばさりと落ちる
君は「あ…」と吐息を漏らしたあと、少し濡れた瞳で僕から視線を逸らした
「天使を辞めたら罰則も無くなったりしないの?」
掴んだ光輪を乱暴な仕草で左右に揺すると、君は熱い息を吐きながら「離せ…」と力無く藻掻き、躰を揺すった
「堕天だけは、僕はやりたくないんだ」
「一生背信者として追われる身になったら、僕なら耐えられない」
「だったら」
「いまここに居る僕を通報しないのは、どうして?」
揺すっていた光輪を離すと君はバランスを崩してよろめいた
転びそうになる君を、僕は両の腕で引き寄せる
「それは…」
「好き…だから……だけど……」
話す言葉が、僕の腕の中で段々と小さくなっていく
君の眼を視詰めながら、それでも僕は、君の指がこっそりと動くのを視野の隅に視た
──気のせいかな
こんな事ばかりしていると、警戒心ばかりが強くなってしまう
まだ断定するには早い
危険は有るものの、それでもあと少しだけ愉しみたい気持ちが僕にはあった
「へぇ…」
「いけない子なんだね」
唇を合わさりそうな程に近付けながら、僕はポケットに忍ばせた武器に手を伸ばそうとした
弾詰りせず、刃こぼれもしない一番良い武器
折り畳み式の警棒だ
今のところは折り畳まれているけど、一振りすると大体のものは殺す事が出来る武器になる
つまり、僕の戦意と同じだった
僕の手が武器に触れる
躰の合わせた部分から、肉体の筋の動きで、君が何かしら腕を動かそうとしているのが感じられた
経験から言うと、この僅かな動きが反撃の支度である可能性は十分にある
僕は君を抱いていた腕を離すと、両手の掌を広げて害意がない事を示した
「何かしようとしなかった?」
「別に…?」
君が問いかけ、僕が答える
意味の無い白々しい言葉が僕たちの間を交差した
僕は「敵同士で無ければなぁ…」と思いながら、安全に部屋を去る算段を頭の中で組み立てている
君を好きなのは本当の事だった
「ねえ」
「もう帰るけど、最後にキスしようよ」
「んっ…」
「…………」
「いま、何かしようとしなかった?」
「別に…?」




