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順調に試合は進んでいき、午前の部の、第三会場の一位が決まる。
第三会場の一位は、第二騎士団の獣人だった。ルナトさんも結構いい線に行ったのだが、結局負けてしまい、二位という成績に終わったようだ。
午前の部の終了を告げるアナウンスが入る。
午後は中央会場で、各会場の優勝者と、第一、第二騎士団の各団長、副団長によるトーナメント戦が行われるそうだ。
これからしばらく昼ご飯のための休憩になるわけだが――すっかり昼ご飯のことを考えていなかった。
お金がないわけじゃないけど、貴族はどこでご飯を食べるのか、とか、全然聞いていない。平民はこれから出店を周るのかもしれないけれど、貴族であるわたしが真似をするわけにはいかない。
とはいえ、貴族の観客席も用意してあるくらいだから、王城もなんの準備もしていない、ということはないと思うんだけど――。
「オルテシア嬢」
「ひゃあ!」
考えこんでいたところに名前を呼ばれて、わたしは変な声を上げてしまう。
アルディさんだった。彼がわたしのすぐ近くに、いつの間にかやってきていた。
サギスさんは一瞬動いたものの、アルディさんの、一般の団員とは少し違う制服を見て、前に出るのをやめた。……なんとなく、こちらを意識したままのように感じるけど、少なくとも、ルナトさんに対してほどの警戒心は感じられない。
「ごめんね、驚かせた?」
「いえ、考えごとをしているところだったので、つい声が出ただけで……」
驚いていない、というと嘘になるけれど。だって、近くに誰かいるなんて気が付かなかったし、まさかアルディさんにまた会えるとも思っていなかったし。
「考えごと? 何か困ってるの?」
わたしは少し迷ったものの、アルディさんに昼食のことを何も考えず用意していなかったことを話す。隠したってすぐにバレることだし、彼は王城勤めだから、何か知っているかもしれないし。
「丁度良かった、お昼を誘いに来たんだよ」
立食形式とコース形式の二種類の昼食を城側が昼食を準備していてくれたらしい。助かった。
ただ、コース形式のほうは、チケットを購入する際に申請しないといけないらしく、わたしが第二騎士団関係者席のチケットを貰った時点で、申し込みは終了していたらしい。だから、立食形式の方に誘いに来てくれたそうだ。
コースでも立食でも、ちゃんとお昼を食べられるだけ十分である。昼食抜きで夜まで、となるとお腹が空いてしまう、という問題もあるが、わたし一人、昼食の場所が分からなくて食べ損ねてしまう、というのが恥ずかしいのだ。教えてくれるような人が誰もいない、という、ぼっちの証明になってしまうから。
わたしはアルディさんにお礼を言って、昼食の会場へと向かった。




