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最初のうちは、実力差のある者同士で組まれているのか、割とさくさく勝敗がついていく。
本物の、物が切れる剣ではなく、訓練用の剣を使っていることもあって、特別、痛々しさのような物はない。勝敗がつくとはいえ、あくまで見世物であることを意識しているのか、えげつない攻撃等を見ることはない。絶対に怪我をさせることはない、と思えるような安心感があるのが、娯楽として成り立っているように思えた。
これで血が飛んだり、怪我をするのが当たり前、みたいな大会だったら、痛々しくて見ていられない。それに、いくら前世と比べて娯楽が限られている世界だとはいえ、そんな治安の悪い娯楽が流行ってたまるものか。
漫画に出てくるような裏社会でひっそりと行われている剣術大会――とかなら、まだしも、王城で、公的な催しでそれが行われるのは不適切すぎる。
そりゃあ、もちろん、これだけの人数で、やっていることがやっていることなので、完璧に無傷で終わるとは思っていないが、それでも怪我をする可能性が低いことにこしたことはない。
一回戦、二回戦、と、トーナメントが進んでいくごとに、じわじわと時間がかかるようになり、また、見ごたえも増していく。
明らかに勝敗が分かるような戦いではなく、どっちが勝つのか分からない、という勝負では、ドキドキと気分が高まるものがあった。
それに、団員の実力が上がり、拮抗していくことで、まるで剣舞のようにも見えた。
なるほど、これは人々がハマるのもちょっと分かる気がする。
他の会場はどうか知らないが、ここの会場はやや第二騎士団の団員が多めのようだ。そうなると、当然獣人が出てくることも多くなるのだが――。
「あの方、格好よくないですか?」
「わたくしはあちらの方の方が好みだわ」
――周りの反応、特にご令嬢の方は、結構獣人に対して好印象を抱いているようだ。わたしたち世代になると、完全に獣人への差別意識が抜けているらしい。
対して、年配の方はあまりいい顔をしていない。表立って騒ぐ人はいないが。これがもう少し年が下がってくると、嫌悪感こそないけれど、どう反応していいのか分からない、という様子だった。
ご年配――お爺様世代の方々は、まだ差別の残る時代を知っているから、そういう反応にもなるのだろう。
こう考えると、意外と短期間で差別意識が改善されているのに驚く。王族にはよほどのことがない限り逆らえないし、もし、教育等を徹底して改善したのであれば、このくらいできるもの……なのだろうか?
この辺りは、国の仕組みも規模も文化も、前世とあまりにも違いすぎるので、前世は参考にならない気がする。ただ、前世を思い出す前の教育を考えてみても、どちらかというと獣人を擁護する表現を使う教材ばかりを使っていたように思う。
今はまだ、国の重鎮は差別時代を知っている層だから、なんとなくわだかまりが残っているように思うが、これがひと世代入れ替われば、もっと意識が変わるだろう。
わたしの、もしくは、わたしの子供の世代で、獣人差別が完全に撤廃されるのも夢じゃないかもしれない。




