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剣術大会の第三会場の観覧席につくと、すでに結構人が集まっていた。
わたしのいる観覧席は貴族のための場所だから、護衛の人間がいることを考えて席が広めにとってあるので、席を横並びにすればいいだけの平民の席と違って一席あたりのスペースが広く、数がとれないので、平民エリアと違って席がなくなるのが早いのは当たり前なのだが。
わたしは第二騎士団の関係者席に座らせて貰っていて、一般席と思われる場所からそこそこ離れているので、客席の埋まり具合がよく分かる。
席に座る人物は二極化していた。単純に剣術大会を楽しみたいのであろう年配の男性と、騎士にきゃあきゃあ騒ぎたいと思われるご令嬢のどちらかだった。
前者は一緒に来たのであろう友人か家族と、楽しそうに話をしているが、後者のほうはわたしをちらちらと見る人が何人かいるのが分かった。
地味姫というあだ名をつけたのは王子だから、社交界に出る人間なら誰しも知っているが、それを真に受けてひそひそするのは同年代――特に、ルルメラ様の世代である。
親世代にもなると、派手に散財する娘よりはずっといい、おとなしい方が息子に嫁がせたときに言うことを聞きそうでいい、と、そこまで白い目で見られることはない。見下されているような気持ちなることに変わりはないけれど。
わたしは地味姫という評価自体、好きではくて、嫌だけれどこんなわたしだし、言い出したのがリアン王子だから仕方ない、という感情の方が大きいから、どう評価されてもあんまり嬉しくはないのだか。
ルルメラ様に同調してわたしの陰口を叩く層からしたら、わたしがこんな場所に来ていることが珍しいんだろう。しかも、第二騎士団の関係者席だし。今まで、一度も剣術大会の観戦なんて来たことがないし。
加えて、わたしが第二王子との婚約が破棄されたことが本格的に広まっているのかもしれない。正式な発表こそまだしていないが、すでに手続きが完了して一か月以上経っている。知られていてもおかしくはない。ましてや、ルルメラ様のお友達のようなご令嬢たちには。
わたしがこうして第二騎士団の関係者席に座っている、というのを見て、婚約者を探しに来た、とか、新しい婚約者は第二騎士団の誰か、とか、そういう噂を立てるんだろう。
彼女たちは友人同士で話ができるのに対して、わたしは一人で何もすることがない。今日の護衛はお父様が選出した方。サギスという名で、普段はお父様が外出する際に護衛をしている人だから、すごく真面目でちょっとした雑談にも答えてくれない。なので、彼に話しかけるわけにもいかない。ジルみたいな子だったら、雑談の一つや二つ、付き合ってくれるけれど。
……いや、待って? いつもと装いが違うから、ひそひそされている、という可能性はない?
パーティーに出るときのわたしとは違って、今までに比べたらかなり気合の入れた髪型になっている。ジルもアルディさんも褒めてくれたから、変、ではないと思うけれど……多分……。
わたしが変でないとしても、わたしが着飾っているのは違和感がある、と思われているのかもしれない。
いろいろと不安になってきてしまった。早く大会、始まらないかな。




