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 お国の為に頑張っている人たちなわけだから、嫌なことを全部やらさせるのはちょっと可哀想ではある。いくら仕事とはいえ、命をかけるのだ。少しでも快適に働いて欲しい。

 絶対にやらない、というわけではなく、王命ならば、と言っているあたり、余計に可哀想になるというか。


「ええと……それでは、既に第二騎士団に所属している人間の方に頼むとか……」


「人数が少なすぎて手がまわらないのです。それに、第二騎士団に所属する以上、職務と訓練が最も大事になります。それを怠るようなことがあってはならないのです」


 まあ、それは……。

 剣を持って警備をし、時に戦う第二騎士団、のはずなのに、ブラッシングで手一杯、本来の仕事に手をつけられない、なんてことが危惧されれば、ブラッシングだけをする人間を雇いたくもなるか。


「城の使用人を借りることも考えたのですが……。皆、獣の姿になった我々を怖がるのです。いくら言葉が通じ、襲うことがないと伝えても、見た目が見た目ですから」


 確かに、わたしのお茶の準備をしていたメイドは非常に怖がっていた。小柄な犬猫ならまだしも、慣れていなければ大型犬程度でも恐怖を抱くのには十分だろう。

 ……周りがそんな風なのに、下手に虎をかまったことで、変なあだ名がついたらどうしよう。地味姫、というのはなかなかに嫌なあだ名だが、虎姫、とかになったら更に嫌だ。すごく、ダサいヤンキーっぽい。不良漫画のかませポジションみたいな名前じゃない?


「それに……アルディがすごく周りに自慢して話すのです」


「自慢?」


「その、オルテシア嬢のブラッシングがすごく良かった、と。それで周りもオルテシア嬢に興味を持ってしまったようで」


 困ったものです、とでも言いたげな表情だ。

 あの地味姫、ブラッシングは意外と上手いんだぜ、みたいな噂が立っているんだろうか。


 正直、ブラッシングすることくらいは構わない。別に嫌いじゃないし。

 でも、侯爵令嬢という地位と、ついこの間婚約破棄されたばかり、というのがひっかかってしまう。周りから見たら、第二王子を忘れられずに、王宮の職務にしがみつく令嬢、みたいに見られないだろうか。


 ――『地味姫』の癖に。


 何度となく言われてきたその言葉を、また、突き付けられるような気がしてしまう。

 でも、これを断ったら孤児院の院長か、爵位を落として分家の養女になる道しか残っていないのも現実だ。


 孤児院の院長になったら、まず結婚は望めない。地味姫の名にはふさわしいのかもしれない。

 でも、どうせなら結婚してみたい、という気持ちがある。

 前世で覚えている限りでは、結婚はおろか、恋人もいなかったわけだし。


 一方で、分家の養女になったら、爵位が落ちるので行儀や作法の習得をしなおさなければならない。

 第二王子の婚約者として、侯爵令嬢として、高い教育を受けてきたのもわたしだから、その行儀作法を実践すること自体にさほど心配はないが、覚えなおすのは前世の記憶と混じったわたしである。覚えられるか心配しかない。


 どの道を選んでもデメリットはあるな、と考え込んでいると――。


「来月の王城解放日まで、お試しで、という形はどうでしょうか」


 そんなハウントさんの提案があった。

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