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一般開放されている王城は、普段よりも人が多い。貴族が利用するほうの門は馬車ばかりだけれど、それでも人の出入りが激しい。これは入場管理が大変そう。
わたしは今まで王城解放日に王城を訪れたことはなかったので、こんなに貴族も出入りするとは思わなかった。平民だけだとばかり。
剣術大会を観戦して、きゃあきゃあ騒ぐ貴族令嬢がそれなりにいる、というのは噂で聞いて知っていたけど、ここまでの人数だとは予想できなかった。今並んでいる馬車のほとんどが、剣術大会目的の貴族の馬車、なんだろうか。
いや、流石にそれは考え過ぎ、かなあ。自分がそうだから、周りもそう思えてしまうだけかも。
入場審査を受けている間、わたしは特にすることがない。御者が全部やってくれるので。
ぼーっと、窓の外の様子を眺めることくらいしか、することがないのだ。
貴族が利用する門の方からも、平民たちの姿が見える。少し遠いけれど、十分に賑わっている様子はうかがえた。
あっちもあっちで楽しそうだが、今日はお父様につけられた護衛が一人。流石にお忍びで平民にまぎれられる状態じゃない。
今日は無理だけど、定期的に王城解放日はあるし、いつか行ってみたいな。わたしは今まで貴族用の区画以外の街に行ったことがないから、『お忍び』なんていうのは物語の中の話だったけど、王城の中だったら、平民に混じっていてもそこまで大事にはならないだろうから難しくはないはず。
簡易ではあるけれど、平民にも入城検査はあって、危険物は取り上げられるそうだから、下手に城下町へ行くよりは安全だろう。
なんてことを考えていると――。
――コンコン。
わたしが外を眺めていたのとは反対側の窓が叩かれる。この馬車には座席の左右と、扉の部分に一枚、窓があり、車体の側面上部に片面三枚ずつ窓があるデザインになっている。叩かれたのは、門番がいる側の窓だ。
座席の窓はカーテンが閉められるようになっているが、開けっ放しだったので、パッと音に反応して振り返れば、すぐに窓の外の光景が目に飛び込んできた。
ひらひらと笑顔で手を振っているのはアルディさんだ。
まさか、もう、こんなところで会えるとは全く予想していなかった。……でも、王城の警備が主な仕事である第二騎士団なのだから、こうして入場審査をすることもあるのか。全然そのことに考えが至っていなかった。
わたしは、こっそりと髪を軽く整えてから、馬車の窓を開ける。扉の部分の窓は完全にはめ殺しだから開閉はできないが、座席部分の窓は開けられる。野盗が出るような道では使うことができない車体だが、今日は舗装された安全な道を通ってきたので何ら問題はない。
「おはよう、オルテシア嬢。今日、来てくれたんだね」
わたしが窓を開けると、アルディさんが声をかけてくれた。