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お父様は非常に言いたくない、という雰囲気で、「お前は空気を読んで行動するからな」と前置きをした。
「第二騎士団へ行くようになってから、多少は良くなったものの、自分より周りを優先することがまだ多い。……全てを先に話してしまえば、お前が本当に望むものを与えられないような気がして、黙っていたが、結果としては無駄に終わったな」
そんな風に、お父様は言う。話が全く見えてこない。
でも、全てを先に、とは、わたしの婚約破棄のことについてだろう。
「……話が長くなるから、結論から話す。お前は、本当は王子との婚約が白紙に戻った後、とある男の元へ嫁ぐことが決まっていた。つまりは、分家の養子になるか、孤児院へ行くか、その二択の他にも、その男の元へ嫁ぐという未来もある、ということだ」
「――……。……そ、その相手って……」
この話の流れで、思い当たる人物は一人しかいない。わたしは思わず、胸の前で指を組んでいた手に、力を籠める。
期待せずには、いられない。
お父様は、わたしの予想通り、「アルディ・ザルミールに、だ」と、彼の名前を上げた。
でも、わたしが、アルディさんと結婚する? なんで……?
話が全く見えてこない。
「今回の婚約破棄の発端は、全て王子の過失によるものだ」
混乱するわたしに、お父様がはっきりと、断言した。言い捨てる、といっても過言ではないような言いっぷりである。
「元々、お前が第二王子の婚約者になったのは、第二王子が王位を目指すに当たって、我が侯爵家の後ろ盾が必要になったからだ」
……わたしが婚約することで、この侯爵家が後ろ盾になるのは分かる。……でも、正直、あれだけ優秀で人望のあるローザス王子がいるから、あんまり効果がないような……。リアン王子はルルメラ様に比べたらまだマシな人ではあるけれど、ローザス王子と王位争いをするのであれば、相当な努力が必要になると思う。
順当に、第一王子が次期王になるのだとばかり思っていた。この国では、生まれた順が多少考慮されることはあれど、確実に第一子が王位を継ぐことができるわけじゃない。第二子以下が有能であれば、そちらが王になることも珍しくはない。
ただ、現状を見ると……。あまりハッキリと、大きな声では言えないが。
わたしの言いたいことが分かっているのか、お父様は「問題が起きなければ、第一王子が跡を継ぐだろうな」と言った。
「だが、第一王子には大きな欠点がある。――彼の婚約者のことだ」
「それは……」
ローザス王子は、盲目的、と言ってもいいほどに婚約者を愛している。異常な量のプレゼントなんかが分かりやすい。
不幸中の幸いなのが、ローザス王子の婚約者は非常に健康的で常識人である、という部分だろうか。だが、もしもルルメラ様のような性格だったら、と思うとぞっとする。
婚約者に対して全肯定的な性格であるローザス王子は、二つ返事でなんでも言うことを聞きそうなのである。流石にあれだけのお方なのだから、女より国を取るはず――と言いたいのに、断言できないのが怖いところだ。




