08
ハウントさんの言葉を消化している内に、「まずは説明させてもらえますか」という言葉が投げかけられ、わたしは黙ってうなずく。まずは話を聞いてみないことには判断出来ない。
「オルテシア嬢は、獣人についてどのくらい知っていらっしゃいますか」
聞かれて、わたしは記憶を探る。……あんまり思い出せることがないな。身体能力に優れていて、第二騎士団がほとんど獣人で構成されている、ということくらいしか知らない。
これはなにも、わたしが前世を思い出した影響でこうなのではなく、昔から獣人に接点がないのだ。――……うん、ない。念入りに思い出そうとしてみても、情報がまったく出てこない。
素直にほとんど知らない、ということを伝える。
「成程。なら一から説明したほうがよろしいでしょう。と言っても、生い立ちとかは今回関係ないので、簡単に特性のみの説明となりますが。もし、第二騎士団に入ってもらえるようであれば、その際に詳しくお教えします」
わたしが知らない、と言っても、責めるような様子は見せず、彼は穏やかにほほ笑んだ。
「我々獣人は、一定周期で獣の姿に戻ってしまうのです。前回、貴女がブラッシングしていたアルディのように。個人差がありますが、大体二か月に一度、数日程度くらいですね」
……あれ、獣人だったんだ。ハウントさんのペットなんですか、とか聞かなくて良かった。いくら何も知らないからとはいえ、失礼すぎる。
元が獣人なら、こちらの言葉を理解しているのにも納得だ。
でも、なんだ、じゃあ、やっぱり人間を無意味に襲うことはないのか。無駄に怖がって、ちょっと損した気分。
ぽろっとペットかと思った、なんてこぼしたら噛みつかれていたかもしれないけど。
「獣の姿でいると、ブラッシングが必要になるのですが――誰もやってくれないのです。ましてや、自分ではできませんし」
「……獣人の方同士でしあうのはダメ、なんですか?」
個体差がある、なんて言うくらいだから、全員が一気に獣の姿になるわけじゃないだろう。現に数日前、あの虎――アルディさんとやらが虎になっていたとき、ハウントさんは、今、目の前にいるのと変わらない姿をしていたし。
事情が分かっている相手なら、互いにやりそうなものだけど……と質問してみたのだが、ハウントさんに、嫌悪感丸出しの表情をされた。
それも一瞬で、咳払いを一つしたかと思うと、すぐにまた穏やかな表情に戻ったけれど。
「おそらく、獣人同士でやれと言われて、やる獣人は一人もいないでしょう。……王命ならまだしも」
そこまで言うか? よっぽど嫌なのかな。人間のわたしには分からない。
「これは感覚的なものなので人間のオルテシア嬢にも分かる例えが見つからないのですが……。獣の姿でいるときに、家族以外の獣人に触られるのは酷く癪に触るのですよ。それが、仲のいい友人だとしても」
「獣の姿になると、縄張り意識が強まって、パーソナルスペースが広まるのかもしれません」とハウントさんは言う。