表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される  作者: ゴルゴンゾーラ三国


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/122

79

 その温かさに、何故だか泣きそうになってしまった。堪えていると、アルディさんが、きゅっと、わたしの手を握る力を強めた。その力加減が、心地いい。


「したいことをするのと、すべきことをやるのを両立させることは、悪いことじゃないよ」


 わたしに目線を合わせるように、アルディさんは少しかがんでくれる。


「オルテシア嬢は何をして、何をすべきだと思うの?」


 優しく問う声音に、わたしは、気にかけてもらわなくても大丈夫、自分で何とかする、なんて言う気にもならなかった。


「わたし――わたし、は、貴族令嬢の役目を、果たすべきだと思っていて、それを放棄したいとも、考えていません」


 誰かの元へ嫁ぎ、子を産み、次世代を育てる。それは立派な役目だ。自由に何かをすることも素敵だとは思うけれど、わたしがそれを叶えるためには、途方もないくらいの迷惑を周りにかけてしまう。そこまでして、自由を手に入れたいとは思っていない。

 多分、そこまでして好きに生きたとしても、結局は迷惑をかけたことに対しての罪悪感で、その後の人生を楽しめない気がするのだ。


「一方で……皆様をブラッシングして、交流するのが楽しくて。終わってしまうのが、嫌で――」


 ――何より、貴方と離れるのが、辛い。

 最後までは言えなかったけれど、まぎれもない、わたしの想い。


「……そっか。じゃあ、それが両立できる道を探してみよう?」


「両立……」


「確かに、いつまでもオルテシア嬢がここにいるのは難しいかもしれない。っていうか、第二騎士団としても、いち御令嬢の厚意にいつまでも甘えているわけにもいかないしね。でも、お試し期間が過ぎてからも、少しくらいならいいんじゃない? ケルンベルマ卿には相談してみたの?」


 その言葉に、わたしは首を横に振る。

 お父様は、何も言っていない。お試し期間後については、続けても良い、とは明言していないけれど、逆に駄目だ、とも否定していない。未来を自分で決めろ、とは言っていたけれど。


「駄目なら駄目って、言うだろうし。明言しなかったのなら、まだ希望はあるかもしれないよ」


 ……お父様に相談する。それは、考えてもみなかったことだった。どうせ駄目だろう、って、わたしは勝手に決めつけてしまっていた。

 でも、ついこの間、お父様は、わたしを地味姫と笑う他人とは違うんだって、話をちゃんと聞いてくれたんだって、知ったばかりじゃないか。

 少しばかり、希望が見えてきた。第二騎士団に本格的に勤めたい、と言うのは反対されると思うが、もう少しだけ、というのであれば、多少は融通してくれるかもしれない。


「それに、別に今生の別れじゃないしね。騎士団の中には爵位持ちもいるから、他の場所で会えるかもしれないし。――あ、そうだ、もしかしたら新しい婚約者も騎士団の中で決まるかも……」


「――ッ」


 わたしは、思わず、彼の手を握りしめていた。

 聞きたくない。

 他でもない、彼の口から、わたしとまだ知らぬ誰かが結ばれることを喜ぶ言葉なんて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ