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「去年は二位だったよ」
二位。……二位!?
思わぬ順位に、わたしは声を上げそうになってしまった。
「ちなみに一位は第一騎士団の副団長」
第一騎士団、というと、王族の護衛騎士の人たちのことか。王族を常に守っている人たちの集まりだから、そりゃあ強いのも分かるけど……。
ん? 一位、二位が共に副団長って……。
「ハウントさんは何位だったんですか?」
「ハウントは三位だね」
ちなみに四位が第一騎士団の団長らしい。一位から四位までは、それぞれの騎士団の団長、副団長が独占するのが常なので、平の騎士団員からしたら、五位が実質優勝、みたいになっているそうだ。
アルディさんは「志が低い。僕たちに勝って副団長になってやろう、って気概はないのかな」なんて言っていたけれど、役職持ちが独占するのが当たり前になってしまっていたら、アルディさんがそう言うのも無理ない気がする。いくら特別職の人が強いと言えど、次の世代が育たないのはいいことではないだろう。
それにしても、副団長に負ける団長でいいんだろうか……?
「団長っていうのは、副団長と求められるものが違うからね」
わたしの疑問を見抜いたかのように、アルディさんが説明してくれた。
団長ともなると、公的な場所に出席することが増えるため、マナーだけでなく家柄も必要になるし、采配能力や書類能力なども求められる。単純に強さと人望だけがあればいい副団長とは違うらしい。とはいえ、勿論並みの騎士より腕っぷしがあることは大前提らしいが。
そう説明されれば、副団長の方が強いというのも納得できる。貴族に屈したり、書類仕事ができない騎士団長では、下の人も困るだろう。
「それに、ハウントに限ってはあり得ないけど、なにかやらかしたときに団長を止めるのは副団長の役目だから。ここで勝てないと」
副団長には、そういう仕事もあるのか……。
「……ハウントは第一騎士団の団長に勝っているのに、僕は勝てないの、悔しいしね」
去年のことを思い出しているのか、普段優し気な表情ばかりを見せているアルディさんの目つきが鋭くなる。
「勝てるといいですね。応援しに行きます」
わたしは思わず言ってしまっていた。するっと口からでた言葉。本心ではあるけれど、応援に行けるかどうかは、お父様に聞かないといけないのに。
――……まあ、元より、説得する気満々ではあったけど。
わたしはここ一か月半、第二騎士団の関係施設に出入りしていたけれど、アルディさんが剣をふるう姿は一度も見たことがない。やっぱり、一度くらいは見ておきたいというか……。
世の中の貴族令嬢が、剣術大会を楽しみにしている、というのは噂で知っていたけれど、格好いい騎士が剣をふるうのを見て騒いでしまう彼女たちの気持ちが、今、少しだけ分かるような気がした。