76
夜ではなく夕方のはずなのに、結構、皆、騒いでいた。夜会のようなパーティーとはまた違う賑やかさだが、これはこれで良い――いや、むしろ、こっちの方が好きかもしれない。
皆、純粋に騒ぐことを楽しんでいて、わたしの陰口を言う人は一人もいないし、言葉の裏にある真意に気をかけなくていい。
第二騎士団にも貴族家の者はいるはずなのに、騎士団、という特別な空間がそうさせるのか、無礼講みたいなもので、貴族のパーティーのように、作法や爵位による上下関係はあってないようなものだった。流石に先輩後輩の上下関係は健在みたいだったけど、それだってそこまで厳しいもののように見えない。
「楽しんでる?」
わたしが周りを観察しながらジュースを飲んでいると、アルディさんが話しかけてきてくれた。いつものパーティーのように壁の花になっていたわけではないが、会話のタイミングが切れたところで、アルディさんが来てくれたようだ。
「よかったらこれもどうぞ」
そう言ってアルディさんが渡してくれた皿には、くるみパンが載っていた。……しかも、王都で有名なパン屋のもの。あの店の物は形が独特だからすぐに分かる。
このくるみパンは、ジルが王都に出かけた際、必ず買ってきてくれるものだが――逆に言えば、そのときにしか食べられない。普段パンが食べたくなったときは、家の料理人に頼むからだ。
わたしはありがたくお礼を言って、パンを貰う。……うん、おいしい。
もう一度お礼を言っておこう、と彼の方を見ると、優し気な笑顔を浮かべていて、すぐに目を逸らしてしまった。……そんなに子供っぽくパンを食べていただろうか。好物にはしゃぐのは子供っぽい……?
わたしが内心で頭を抱えていると、「あ、それ」とアルディさんが声を上げる。
「ハウントから貰ったんだ」
それ、とは、近くの机の上に置いておいた封筒のことのようだった。
「僕は午後から第三会場で出場する予定だよ」
なんでも、騎士団長、副団長、とその他含め、肩書のある人間は午後からの出場らしい。
特別職についている人の実力で一回戦から出てしまうと一般騎士の見せ場が減るというのもあるが、王城の警備のために、責任者になりうる立場の人が全員出払うことのないようなスケジュールになっているらしい。
人が増える王城解放日に、警備も剣術大会も、とかなりの重労働日になりそうだ。そりゃあ、ストレス抱えたまま挑みたくないわけだ。王城開放日を、少しでも心身ともに万全のコンディションで彼らが迎えられたらいいな。
「オルテシア嬢が応援に来てくれたら、今年こそ優勝できちゃうかも」
「……ちなみに去年は何位だったんですか?」
アルディさんの発言にドキッとしながらも、平静を保って質問する。




