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本人がやる気になるならアリ……なのかな? 騎士は侯爵令嬢と違って、名誉の傷、とかありそうだしなあ。たまに物語に出てくるのだ。惚れた令嬢や忠誠を誓った主なんかを守るために受けた傷は勲章、みたいな扱いをしている描写が。
わたしはカインくんにとって、そのどちらでもないから、またちょっと違うとは思うんだけど。
「――では、強くなる為にもっと訓練をつけてもいいかもしれませんね」
わたしたちの会話に、ハウントさんが笑顔で話しかけてくる。ちょっと圧のある笑み、というかなんというか……。頑張れ、カインくん。
「それはそうと、オルテシア嬢。これを」
ハウントさんがわたしに何かを渡してくれる。思わず受け取ってしまったが……。なんだろう、これ?
封蝋が施された封筒だけれど、ちょっと形状が珍しい。一般的な手紙に比べると、やや細長いような気がする。それにしては縦型ではなく、横型だし。
封蝋に浮き出ている模様は王家の紋章の、簡略化されたものだ。正式な紋章は王族、しかも血族しか許されていないが、簡略化されたものは王城務めであれば使用することを許されているはず。
ということは、第二騎士団の正式な文書、とか……?
「こちら、王城解放日で行われる、剣術大会の特別席のチケットになります」
「第二騎士団が招待できる枠で取りました」とハウントさんが教えてくれる。
剣術大会――。
そう言えば、王城解放日の一環として、そういう催しがあったというのは、記憶している。王城勤めの騎士の実力を見せる、という名目で。
ただ、この世界は前世のように娯楽であふれかえっているわけじゃないから、実力を披露する、というよりは、賭け事まで始まってしまうような娯楽扱いに近いような気がした。
わたし自身、こういう場所には縁がなかった。どの騎士が格好いい、とか、そういう、騎士への興味がなかった、と言うのもあるけれど、見に行こう、と誘ってくれるような友人がいなかったから。フィオナ様はこういう荒事、苦手だし。
わたし自身は、剣術自体に軽い興味はあれど、絶対に見たい、というほどでもなく、毎回出席を見送り続けていた。
「第二騎士団は当日獣化した者を除いて全員出席します。――アルディも出る予定ですよ」
最後の方は、わたしの耳元で、こっそり教えてくれた。
わたしは思わずハウントさんの方を見てしまう。実にいい笑顔を浮かべていた。
「あ、ありがとうございます。時間が取れるようでしたら行こうと思います」
なんだか、すごくからかわれている感じがするけど、まあ、でも、貰っておこう。うん。




