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「開けても?」
しっぽをぴん、と立てたアルディさんがわたしに問うてくる。
「はい、是非」
きらきらと、期待に満ちた目を向けられたら、駄目、なんて言えない。アルディさんの表情は、プレゼントを買ってもらった子供そのものである。
丁寧に包装紙を開け、その中から出てきた櫛を見たアルディさんの目が、少し見開かれた。じっと櫛を見ていたかと思うと、ふと、わたしの方に視線を向けてきた。
「――これ、本当に貰ってもいいの?」
外したわけじゃない――と、思うんだけど……気おくれしないで、でも、安すぎないものを選んだつもりだったけどまずかっただろうか。
でも、わたしが「アルディさんの為に買ったものですから」というと、彼は嬉しそうに目を細めた。
「ありがとう、大事に使うよ」
言葉通り、大切そうに包装を戻す姿を見ると、ほっと安心する。アルディさんだから、下手な扱いはしないと思っていたけれど、でも、いざ大切そうにしているところを見ると、ちゃんと喜んで貰えたようでよかった、と安堵する。
「こんなに素敵なものを貰って、なんだか悪いな」
「わたしも貰いましたから」
軽く髪を撫でるように触ると、髪飾りに気が付いたらしい。彼が贈ってくれてから、わたしはずっとこの髪留めを使っている。デザインが気に入った、というのもあるけれど――アルディさんがくれたものだから。朝、少ない髪留めの中からどれを使おうと選ぶとき、アルディさんの顔を思い出して、つい、使いたくなってしまうのだ。
こんなこと、今までなかった。……まあ、そもそも、髪飾りを貰うこと自体があり得なかったことだから、特別、と言えば特別なんだけど。
あと残り数日でこの髪飾りもつける必要はなくなるかもしれない。ブラッシングの邪魔にならないように、と貰ったものだから。
でも、わたしがここを去ることになっても、この髪飾りはいつまでも使いたいと思ってしまう。
こんなにも、気になってしまうのは、どうしてだろうか。
――なんて。全く分からないわけじゃない、けど。
地味姫と散々笑われてきたわたしを、唯一、可愛いと褒めて、気にかけてくれた人。我ながら、チョロいな、とほんの少し、思ってしまう。
でも、散々、リアン王子に無下にされてきたわたしの厚意が、彼に拾ってもらえて、救われたのも、また事実。
彼への好意が、もう、誤魔化せなくなってきていた。
「――残り数日も、よろしくお願いしますね」
あり得ない未来を想像するだけ、辛くなる。わたしは考えを払拭するかのように、そんなことを言った。
貴族というのも不便である。




