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「――よし」


 ライオンにブラシをかけ終わると、なんだかつやつやしているように見えた。夢中でブラシをかけた甲斐があるものだ。

 お礼のつもりなのか、わたしの膝の上にぽん、と手を置いてから、そのままライオンは檻の隅に丸くなった。次のブラッシングの邪魔にならないように、移動してくれたのかな?


 檻自体は広いし、別に邪魔にならないのにな、と思っていると、ぼそっと、「いいなあ」とアルディさんが呟いたのが聞こえた。

 思わず、彼の方を見てしまう。


「僕、もう、オルテシア嬢がいる間に獣化しなさそうだし」


 ――そう言えば、獣化するのは二か月に一度くらい、なんだっけ。

 アルディさんと初めて会ったとき、彼が獣化していて、一か月半近くしかここにいないから、丁度タイミング的にはわたしが抜けてから獣化するのだろう。

 たった一回しかブラッシングしていないのに、アルディさんは、随分とわたしの腕を気に入ってくれたみたいだ。もちろん、そうじゃなきゃ周りに言いふらしたりしないだろうし、こんな風にわたしが第二騎士団に出向くようなことにはなっていないと思う。


 それにしても、アルディさんのブラッシングができたのは、あの一回だけかあ。獣化する人が多くてあまり気が付かなかったけれど、大体の人は二回目が来ない。

 小動物、と言うような可愛らしい獣化をした人たちはブラッシング慣れしていて、逆に、大型の獣化の人たちは、待ちに待った、と言わんばかりの態度だった。本当に、人によってはなかなかブラッシングしてもらえなかったんだろう。


 ――次にアルディさんが獣化するとき、彼は誰かにブラッシングしてもらえるのかな。

 ――……。


「あの、よければ、今日全員が終わって時間があれば、また髪の毛でもとかしましょうか」


 思い出すのは、最初にここへ来たときのこと。ルナトさんのブラッシングをしたあとに、髪をとかしたこと。

 あのときも喜んでいたから、つい、提案してしまった。


「いいの?」


 パッと彼の顔が明るくなる。そんな表情をされたら駄目、なんて言えない。

 今日は、昨日よりライオンが増えたとはいえ、人数がそこまでいるわけじゃない。終業時間までには余裕を持って終われそうなので、アルディさんの髪をとかすのは難しくないだろう。


「皆さんが終わったあとになりますけど……」


「うん、それでも嬉しい! ありがとう!」


 輝くような笑顔を見ていると、提案してよかったな、という気になる。

 髪をとかすくらいでこんなにも喜んでくれるなら、もっと早く言えば良かったかな。まあ、タイミングがあうのが今だけ、というのもあるけど。

 アルディさんと約束をして、わたしはブラッシングへと戻った。彼と約束をしたからといって、こっちの手を抜くわけにはいかないしね。

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