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翌日。
昨日、アルディさんと話していたことが気になって、なかなか眠れなくて、寝不足である。他人の前であくびをするなんて、貴族令嬢失格……と、分かりつつも、つい、出てしまいそうになるので、わたしは必死にあくびをかみ殺した。眠たい。
「今日はライオンがいますが、前回のように狂暴な獣化ではなく、普通に言葉が通じますから、大丈夫ですよ」
前言撤回。ハウントさんの言葉に眠気が吹っ飛んだ。
ライオン。ライオンって。
いや、虎がいるからライオンもいるもの……なのか? どうなんだろう。でも、確かにアルディさんの口ぶりだと、彼以外にも猛獣に獣化する獣人はいる様子だった。分かりやすい猛獣に当たったことはなかったから、その実感がわかなかったけど、いてもおかしくないのか。
むしろ、今までよく当たらなかったものである。
――それにしても、ハウントさん、昨日のこと、なんにも言わないな。食堂に第一王女と第一王子がやってきた、なんて一大事、団長である彼の元へ報告が行っていないわけがないと思うんだけど。
てっきり、朝の挨拶に行ったら一番に言われるだろうと思って身構えていたのに。
……それとも、ハウントさんも、アルディさん同様、何か知っているから何も言ってこない……とか? 彼もまた、ルルメラ様が何もしてこない、できないと、思っているのだろうか。
気にしない方がいいと思いつつも、忘れる前に違和感を見つけてしまうと、つい、意識してしまう。
――……。
ううん、今は今日の仕事に集中しなきゃ。なんといっても相手はライオンである。
流石にライオンはちょっと怖い、とか、でも言葉が通じるなら大丈夫かな、とか、そういう問題ではない。ライオンのブラッシングなんて、やり方をしらないし、そもそも見たことも聞いたこともないのだ。
前世で、実家の犬や猫たちのブラッシングのやり方を調べるために、動画サイトでブラッシング方法を探したことがあってその流れで、関連動画のいろんな動物のブラッシングをつい見てしまうことが多かった。意外と動物園が動画をネットにアップしていて、こんな動物もブラッシングするんだなあ、とついつい見入ってしまうことがあったけど、それにしたって、ライオンのものは見たことがない。
なので、完全にイメージでしかなく、教えて貰うしかない。ライオンカットの犬の要領でやればいいんだろうか。
ちゃんとできるか不安である。どんな動物でも、無理矢理ひっぱったり、強引にとかしたりしなければ痛くはないはずだから、大丈夫だとは思うんだけど……。
「――オルテシア嬢? 大丈夫ですか?」
つい、考え込んでいたら、ハウントさんに声をかけられる。怖気づいた、と思われただろうか。
「大丈夫です、頑張ります!」
寝不足な上に全く未知の領域であるライオンのブラッシングなんて、気を抜いていられない。
失敗しないように頑張らないと!




