63
今まで、誰にも言われたことがない言葉に、わたしはなんと返したらいいのか、分からなかった。嬉しいのは本当で、もしかしたら、わたしの憧れも認めてくれるのかも、と期待してしまうのも事実。
でも、それ以上に、今回のことは見逃せなかった。
なんて伝えたらいいんだろう、と迷っていると、「――迷惑だった?」と、アルディさんが問うてくる。
「ち、違います! すごく……すごく、嬉しかったです! でも、それはそれ、これはこれと言いますか……!」
思わず声を荒げてしまうと、わたしが言葉に詰まった瞬間にパチン! と手を叩く音が聞こえてきた。
びっくりして肩が跳ねる。
「そこまで。痴話喧嘩なら他でやってよね。ここ食堂だから」
手を叩いたのはルナトさんだった。呆れたような表情でそんなことを言う。
全員が全員、わたしたちの方を見ているわけではないが、わたしたちがいる入口付近に座っている団員たちからの視線が、ちらちらとこちらに時折向いていることに、今更ながら気が付いた。
「ていうか、昼メシ食ってる時間なくなるよ。まあ? オレはお前らが昼メシ食いそびれようが、どーでもいいけど?」
ルナトさんの言葉に、慌てて、入口の扉の近くに取り付けられている大きな壁掛け時計を見ると、昼休憩が終了の時刻まであとニ十分もなかった。
アルディさんが昼食を食べそびれない為に食堂に来たのに、これでは意味がない。
「とりあえず、昼食にしませんか。――……続きは、また後で」
わたしがそう言うと、アルディさんはまだ少し、納得していないような顔をしていたけれど、でも、後で、と言ったからか、少なくとも、この場は収まってくれた。
人が少なくなってきた食堂で、席についてご飯を食べ始める。美味しいはずなのに、なんだか、味が分からない。
ルルメラ様に酷くなじられたことと、初めて誰かに庇われたことに、まだ、ドキドキとしていて、なんとなく、何をしていても落ち着かないのだ。
もそもそとご飯を食べ進めるわたしとは反対に、アルディさんの食べるスピードは早い。早食いに慣れているのか、それとも、男女差で一口の大きさが違うからなのか、食べるスピードが早くてもそこまでがっついて食べているようには見えない。
ちらちらと、どうしても、アルディさんのことが気になって見てしまう。
そんなことをしていたら、パチッと、目があった――ような気がした。目があったような気配を感じて、すぐにご飯へと視線を逸らしたから、本当に目があったのかは分からない。
結局、ご飯の味は、最後までよく分からないままだった。




