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食堂にたどり着いたのだが、そこは葬式会場かと聞きたくなるほど、静まり返っていた。人がいないわけじゃない。むしろ、席は、ほとんど埋まっている。なのに、以前訪れたときとは違い、話し声どころか、食器が使われる音すらほとんど聞こえない。
食事を取るときに発生する音よりも、静まり返ったときに聞こえる、シーンとした音の方が良く聞こえるという異常自体。
わたし、これ、入っていいの?
ちらっとアルディさんの顔をうかがうと、彼も彼で困惑しているようだった。アルディさんも、何も知らないようだ。
「あら、ごきげんよう、オルテシア」
そんな中、静寂を破ったのは――ルルメラ様の声だった。声のする方を見れば、ルルメラ様と、彼女付のメイドが二人いた。ルルメラ様はどこからか持ってきたのであろう、食堂のものではない豪華な椅子に座り、メイドは彼女の背後に控えている。
なんで彼女がこんなところに。
かなり場違いに見える彼女は、嫌な笑顔で扇子を持て遊んでいる。
ルルメラ様がいるから、こんなにも静まり返っているのか。第一王女がいる場所で食事なんて、王家と仲のいい侯爵家ならともかく、普通はそんな機会ない。
平民に至っては、第一王女の顔を、ここまで間近に見ることすら珍しいだろう。
王族がいながら食事をしているところを見ると、ルルメラ様に気にせず食べろ、とでも言われたのかもしれないが、きっと味なんて分からないはず。
「ごきげんよう、ルルメラ様。……どうしてこちらに?」
わたしは笑みを浮かべることに努めながら挨拶を返す。全然想定していない登場だったから、多分、笑顔はぎこちない。
「貴女の様子を見に来たのよ。転んで、顔を怪我したんですって?」
――心配、ではないんだろうな。からかうのに丁度いいネタを見つけた、とでも言いたいのだろう。
この王女、本当に性格がひん曲がっているというか……。兄であるローザス王子とリアン王子には懐いているようだが、その他の人間には皆こんな感じである。王妃様に顔が似ていることが理由でだいぶ甘やかされて育った、とは聞いたことがあるけれど……。
わたし、なにか彼女にしてしまったんだろうか。……いや、ルルメラ様は基本的に明るい性格ではあるものの、一度下だと決めつけた人間は自分が好きにいじめていいと思っている節があるものね……。
嫌な人、と思いながら、早く追い返さないと、とわたしは彼女に帰ってもらう算段を頭の中で考える。第二騎士団の皆は気が休まらないだろうし、アルディさんの昼食がなくなる。今、この場にいる中で、高位の爵位を持っているのはわたしだけなのだろうから、わたしがどうにかしないと。
どう言ったら食堂から出て言ってくれるかな、なんて、考えていたのだが――。
「良かったじゃない、オルテシア。地味な顔に傷がついて、目立つようになったでしょう?」
――その言葉に、考えていた文言は全てふっとんでしまった。