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――一週間後。
わたしは再び、第二騎士団長の執務室に来ていた。
今日からわたしは、また、第二騎士団のブラッシング係として戻ってくることになったのだ。
怪我の治りは思ったより早くて、もうすっかり塞がっている。まだかさぶたがあって目立つので、ガーゼはしているが、医者からは、跡が目立たないくらいにはなるだろう、と言われたので、なんとか戻ってくることができた。
件の犬の姿をした、獣人も、今はすっかり元に戻っているらしい。会うことはできないが、酷く反省しているという。
執務室に入ると、ハウントさんとアルディさんが揃っている。
「お久しぶりです、怪我の具合はどうですか」
ハウントさんの言葉に、わたしは「すっかりよくなりました」と返す。今はちょっと、かさぶたとガーゼが擦れてたまにかゆくなるのが問題で、痛みは全くない。ここでかいたら跡が酷いことになるのは分かっているから、絶対にそんなことできないけど。
「残り一週間ですが――君の付き添いを、カインからアルディに変更することになりました」
「アルディならカインのようなことは起こさないでしょう」とハウントさんが、アルディさんに圧をかけるように言った。
「アルディさんが抜けて大丈夫、なんですか……?」
アルディさんは副団長だったはず。訓練は勿論、書類仕事だってあるだろうから、わたしに付き添ったら、本来の仕事が大変になるんじゃないだろうか。
わたしの質問に、ハウントさんはにっこりと笑って答える。
「大丈夫です。アルディが抜けたくらいで対処できなくなるような人員を組んでいるわけではありませんし、訓練だってぬるくはなりません」
「大丈夫です」と重ねて言うハウントさんとは裏腹に、アルディさんの視線は少し泳いでいた。大丈夫、というよりは、大丈夫にさせる、というのが正しいんだろうな、この場合……。
「それに、付き添いの変更は、カインとアルディ、両方から頼まれたことでもありますから」
カインくんからは、自分よりも、もっと腕の立つ人の方がいい、という進言があり、アルディさんの方は――。
「君をここに呼び寄せたのは僕の責任だ。最後まで君がやり遂げてくれるのであれば、その間、安全を提供するのは僕の責務だからね」
――とのことだった。
王城解放日まであと一週間。その後も、わたしがブラッシング係を続けられる保障はない。
でも、今、こうして再びここに訪れることができて、仮期間をやり遂げるチャンスが来た。
今はただ、わたしの仕事を完遂させる為に努力するまでだ。