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 そういえば、カインくんから孤児院の名前は聞いていなかったな、と思い出し、今、名前を聞こうとしたら、お父様が「それで、鍵を閉め損ねた団員の特定は済んだのか?」と話を進めてしまったので、聞ける雰囲気ではなくなってしまった。


「団員の特定は済んでおります。反省文と謹慎を言い渡しておりますが、必要であれば更に何か罰を与えます」


「――……オルテシア、何かあるか?」


 えっ、ここでわたしに振るの? 

 びっくりして、かなり間抜けな声が出てしまうところだった。


「ハ、ハウントさんがそれで妥当だと思ったのなら、それで十分です……」


 罰を、と言われても、わたしには適切なものが分からないし困る。既に処理されているなら、それでいいじゃないかと思うのだ。


「さて、原因と問題解決はされたようだが――」


 お父様の言葉に、わたしはドキッとする。


「第二騎士団としては、今後、オルテシアをどうしたい?」


 ハウントさんに判断をゆだねるお父様の言い方に、彼は少し目を見開き、驚いているようだった。普通なら、ここでわたしを今後第二騎士団へと行かせない、と言うところなのだから、当然と言えば当然か。

 でも、昨日、わたしが我がままを言ったから。


 とはいえ、ハウントさんが、また来てほしい、と言ってくれるかは、話が別だ。

 怪我をすることが日常茶飯事――とまでは言わないが、珍しくもない彼らにとって、傷を負わせては行けない存在というのは、厄介でしかないだろう。


 わたし自身、そのことに気が付かなかったけれど、今回の一件で、そのことをよく思い知らされた。

 だから、例え、お父様が行ってもいい、と言っても、わたしが投げ出したくないと言っても、ハウントさん次第では、ブラッシング係は終了、となるはずだ。


「――件の団員は、まだ獣化したままですし、オルテシア嬢の怪我の治り具合もありますから、すぐに、とはなりません」


 わたしは膝の上で、ぎゅっと拳を強く握っていた。ハウントさんの角度からは、きっと見えないことだろう。


「ですが……許されるのであれば、再び、オルテシア嬢に来てもらいたいと考えています。勿論、二度と、このようなことがないよう、再発防止には努めます」


「――!」


 わたしは思わず、ハウントさんの方を見た。緊張している面持ちではあったけれど、嘘を言っている様子は、ない。


「獣化した獣人を放置してしまう状態は、長年、第二騎士団の中でも問題になっていました。犬や猫の姿になる獣化であれば、使用人を城から借りることはできましたが、猛獣の姿を取る者のケアは、現状、オルテシア嬢以外、見つかっておりません。ですので、どうか、もう一度、力を貸していただけないでしょうか」


 ハウントさんは再び立ち上がり、わたしたちに頭を下げた。


「……二度目はない、と思ってくれ」


 お父様の言葉に、ハウントさんがパッと顔を上げた。その表情は、驚きの色がにじんでいる。明らかに了承の流れだったとはいえ、こんなにもあっさりと認めてくれると思わなかったのだろう。


「次もこのようなことがあれば、オルテシアをそちらに行かせることはできないが……私としても、君たちには感謝していたんだ。いつも黙って、他人のことばかり気にしていたオルテシアが、自ら意見を言うようになってくれた。第二騎士団へ預けたのは、悪いことばかりではない」


「お父様……?」


 お父様が、まさかそんなことを考えていたなんて。


「少なくとも、当初の期間は勤めさせてやりたいと思っている」


 変わったのは、第二騎士団のおかげだけ、ではない。わたしが、前世のことを思い出したから。ほんの少し、世界が変わって見えて、今まで気にも留めなかったような違和感を見つけてしまっただけ。


 ――それでも、その考えが、行動に現れるようになったのは、まぎれもなく、第二騎士団の影響だ。

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