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翌日。わたしの家に、ハウントさんがやってきた。ハウントさんの前では、制服を来て会う方が多かったから、こうして普段着のドレスで会うのはなんだか少し、不思議な感じがする。
応接室に入り、ソファに座ることをお父様が勧めたけれど、その前に、ハウントさんは頭を下げた。綺麗な九十度である。
「――この度は、誠に申し訳ありませんでした」
ハウントさんの謝罪の声。
「……謝罪は既に受け取っている。本当に申し訳ないと思うのなら、仕事で挽回してくれ」
お父様の声に、空気がぴりっとなる。ことがことだから、元より重たい雰囲気ではあったけれど。
その言葉に、ハウントさんは頭を上げ、「失礼します」ともう一度、軽く頭を下げてからソファへと座った。
「原因は、昼食を準備した者の不手際だったようです」
そう言って、ハウントさんは説明を始めた。
獣化した獣人は、獣化が解けるまであの檻の中で過ごすらしいが、そうなると、当然、世話をする者が必要になってくる。それは、わたしがしていたブラッシングとは別に、食事の用意や掃除のことである。
正午の鐘が鳴ると、昼食の当番を割り振られた人が昼食を運び、準備をするらしい。ただ、その人は当然、午前中は訓練なり書類仕事なりしているので、その片付けをして昼食を運ぶとなると、わたしとカインくんが獣化棟を出た後に、獣化棟へと訪れることとなる。
その昼食の準備をした後、暴れて隔離されていた犬と化した獣人の檻の施錠が甘かった、ということらしい。
「件の獣人は、孤児院の出でして、酷く周囲を警戒しているようでした。抜け出ようとしたものの、獣化棟の扉自体は開けられなかったようです。しかし、そこにオルテシア嬢とカイン――同行していた団員が戻ってきたようで……」
急に現れた人影に驚いて、ガブッと噛みついてきた、ということか。
「……孤児院、だと?」
お父様がいぶかし気な声音で呟いた。
「はい。――……孤児院が取り潰され、そこに保護されていた子供たちの一部が、第二騎士団に所属することとなりましたので」
その話はカインくんから聞いている。聞いていた、んだけど……今、一瞬、ハウントさんが言葉を詰まらせていたように感じた。何か、言ったらまずいことが、会話の中にまぎれていたんだろうか。
でも、孤児院が潰れて子供たちが移動することになった話は、カインくんも知っていた。彼が知っているくらいなのだから、今更そんなに秘匿するようなこともないはず――ない、よね?
不思議に思って、ちらっとハウントさんの方を見ると、彼もまた、わたしの様子をうかがっていたようで、目があった。
すぐに目線を逸らされたけど。
なんだか、明らかに隠し事をしている態度で気になってしまう。