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05

 睡眠は記憶の整理をしている、とはよく言ったものだ。

 地味な婚約破棄イベントが起きてから一晩。目が覚めると、一気に現実が『現実』として認識できるようになっていた。


 昨日まであった、現実とわたしの意識の間の、薄い膜のようなものがすっかりなくなっている。地味姫と呼ばれたオルテシアも、前世のわたしも、等しく自分である、という感覚だ。すべての記憶が『自分』が体験したもの、という意識になっている。


 これは、夢なんかじゃない。


 今になって、のんきに虎と戯れる、なんていう行動の危なっかしさへと恐怖感が一気に襲ってきた。

 とんでもないことを平然と、よくもまあできたものだ。

 次はできないな、と思う半面、その『次』は来ないだろうな、とも思う。なにせわたしは王族から婚約破棄された身。今まで王城によく足を運んでいたのは、リアン第二王子という婚約者の存在があったからで。

 立場を考えると、二度と登城することはない、とまでは言わないが、今までのような頻度でおもむくことはないはずだ。

 その程度で、また虎に遭遇することは少ないと思う。

 事実、婚約破棄されてからというもの、わたしの日常から、王城へ行く、という予定は全て消え去った。


 暇になってしまったな、と思ったのも本当に束の間。

 薄ぼんやりとした夢の世界から、一気に『現実』に変わってから三日経ってからのことだった。


「――お嬢様、失礼いたします!」


 寝起きの頭で、今日の予定は何かあるだろうか、と考えていたわたしに、ベッドの向こう側から声をかけられる。わたし付のメイド。名前はジル。

 ジルはポニーテールにした淡いオレンジの髪が綺麗で、地味姫という不名誉なあだ名があるわたしなんかより、ずっとご令嬢っぽくて可愛らしい。


「洗顔のお湯、お持ちしました」


 桶のようなものにお湯が張られている。わたしはそれで顔を洗い、タオルで顔をふく。


「お嬢様、本日の御召し物はこちらでいかがでしょう」


 そう言ってジルが見せてきたのは、わたしが着るにしては少し派手なワンピースだった。勿論、華美なデザインが蔓延る貴族界では、かなり地味なものだとは思うが。


「……何かあるの?」


 わたしが思わず聞けば、「お着替えと朝食が済み次第、旦那様の執務室へ向かうよう、通達がありました」との返事が。


 ……まあ、もしかしなくても、先日の婚約破棄の件について、だろうなあ。


 王子様との婚約が破棄になって、次の縁談はどうなるんだろう。貴族の娘、というからには、前世と違って結婚しないで生きていくのはなかなか難しいだろうし。

 でも、王子がいらないといった地味姫を引き取る男なんて、いるの? このケルンベルマ家は確かに侯爵家ではあるものの、どうしても縁を結びたい、と思われるような目立つ強みはない。もっと魅力的な侯爵家は他にもっとある。


 憂鬱だなあ、と思いながら、わたしはジルに着替えさせて貰うのだった。

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