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乱暴に扉が開かれたと思ったら、飛び込んできたのはアルディさんだった。ばちっと目があうと、彼の表情が歪む。
アルディさんの元へも報告が行ってしまったのかもしれない。救護室にいたのは白衣の獣人だけだったけど、道中で、誰にも見られなかったわけじゃない。途中ですれ違った誰かが、彼の元へ言いに行ったんだろう。
「あの――」
大丈夫って言ったのに怪我をしてしまったことを謝ろうとして、少し遅れてきたハウントさんも顔を出す。彼もまた、わたしの顔を見て、表情を曇らせた。
「――カイン!」
アルディさんが声を荒げる。カインくんは、弾かれたように治療を受けていた椅子から立ち上がる。
「待って――」
アルディさんを止めようとしたけれど、ハウントさんが先に彼を止める。
「アルディ。許可を出した私たちも同罪だ。任務を遂行できなかったカインに非はあるが、自分を棚に上げるな」
ハウントさんの言葉に、アルディさんがぐっと声を詰まらせていた。
ぴりぴりとした空気の中、静かに、ハウントさんがわたしに向き直って、迎えの馬車を呼んだことを告げる。
「今日はもう、帰ってお休みください」
わたしはその言葉に、うなずくしかなかった。こうなってしまっては、我がままを突き通す理由もない。これ以上はただただ迷惑になる。
「――すみませんでした」
わたしは謝罪の言葉を口にする。
「わたしが、素直にアルディさんの言葉にしたがって、休みをいただかなかったことも、悪いのです」
勝手に転んだのはわたしで、カインくんは守ってくれようとしていた。わたしに傷一つ、つけないというのが任務だったというなら、過程はどうあれ、結果だけ見れば失敗だったと、ハウントさんやアルディさんはカインくんを責めるかもしれない。
でも、根本的に悪いのは、わたしなのだ。相手が獣人とはいえ、猛獣に分類されるような動物のブラッシングも問題なくできてきていたから、犬くらい、と気が緩んで甘く見ていたのは事実である。
前世で犬を飼っていたということも、大きいかもしれない。犬に対して、親しみが強すぎた。
「――……件の団員が檻から出ていた原因は、判明次第、追って連絡いたします」
わたしの謝罪と弁明を受け取ることなく、ハウントさんはそう言った。
夜遅くまで残っていた、ということなんかより、ずっと決定的にまずいことが起きてしまって、救護室の中の空気は、地獄のように重たかった。
――これから、どうなってしまうんだろう。
なんて、考えなくても、分かる。
きっとお父様は辞めろ、と言うだろう。わたしがお父様の立場だったら絶対に言う。
せめて、約束した王城解放日まで、何事もなく、やり遂げたかったと、後悔ばかりが残るのだった。