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手当を受け、右頬全体――つまりは、顔の四分の一がガーゼに包まれたことによって、わたしはようやく自分の怪我の規模に気が付き、驚いた。ちょっと切っただけなのに包帯で巻く、というような大げさなものではない。白衣の獣人は適切な処置をしていた、のだと思う。消毒液を塗られるとき、かなりの広範囲だったけど、実際にしみて痛かったので、それだけの範囲が擦れていたんだろう。
このサイズの擦過傷なら、二人が慌てるのも無理はない。
カインくんが治療されている姿を見ながら、彼が責任を取らされることになったらどうしよう、とばかりわたしは考えていた。
平民なんて、という言葉にはカチンときたものの、未婚の貴族令嬢が顔に傷を作る、というのが、かなりまずい状態なのは事実だ。擦り傷くらいなら跡も目立たず治ると思うけれど、でも、それがどのくらいで目立たなくなるのかが分からない。
傷自体は一週間程度で治るとは思うけど、跡形もなく、というのはもっと時間がかかると思う。あと半月後、王城解放日が終わる頃に綺麗さっぱり治っているか、と言われると、少し自信がない。
もし、分家の養女になって、どこかへ嫁ぐのであれば、その時点で傷跡が残っていればかなり不利になる。
檻があるなら大丈夫、なんて考えてた自分が、どれだけ甘かったのか、今、思い知らされた。
わたしが大丈夫だって言ったのに、責任を取らされるのは、多分、カインくんか、許可を出したハウントさんか、アルディさん。悪いのはわたしなのに。
わたしが、貴族じゃなければ――。
「…………っ!」
――そうか、別に、分家の養女に行かなくたって、孤児院の院長になればいいんだ。
孤児院の院長は、基本的に結婚しない。できないわけでも認められていないわけでもないが、しない方が圧倒的に多い。孤児院の院長は、基本的に孤児院に在住して、長期間不在にできないことから、社交界に出ることはほとんどなくなる。だから、出会いの場がなくなるのだ。
だから、未婚のままでもおかしくはないし、顔に傷跡が残っていたって何の問題もない。むしろ、子供たちの世話をしたり遊び相手をしたりしていれば、傷なんていくつも作ってしまうことだろう。
最初から孤児院に行きたかったと言えば、彼らのお咎めも軽くなるかもしれない。
――その代わり、第二騎士団という、王城に出入りするような人間でなければ滅多に見かけることもない騎士団に所属するアルディさんたちには、もう、会えなくなるかもしれないけど……。
でも、今、わたしが彼らのためにできることと言ったら、これくらいしか思いつかないのである。
元より孤児院の院長に就任することは選択肢の一つだったから、何も、悪いことじゃない。おかしくない。
アルディさんたちに会えなくなる、ということに、少しだけさみしさを感じながらも、お父様に伝える文言を考えていると、バタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。




