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わたしはカインくんに付き添って、救護室に向かう。ベッドがいくつか並び、薬品が置いてるのだろう棚も壁際に置かれていた。どことなく、前世で通っていた学校の保健室を思い出す。ただ、騎士団の救護室、という場なだけあって、学校の保健室の倍くらいの広さがあったが。
わたしたちが入るなり、ここの場の担当者なのだろう、医者と思わしき白衣を着た獣人がぎょっとした目でわたしたちを見た。
「じみひ――オルテシア嬢!?」
今一瞬、地味姫って言いそうになってなかったか。
いや、今そんなことはどうでもよくて。
「怪我をしてしまって……」
わたしの言葉に、白衣の獣人が青ざめる。
「オルテシア嬢、顔を洗ってくださいますか、消毒を……」
何故か、白衣の獣人はわたしの顔を見ている。いや、どう見たってカインくんの方が重傷だろう。指が取れるほど、とまではいかないが、かなり手のひらが赤紫になってしまっているのに。
「わたしよりも、彼を――」
「『わたしよりも』なんて、貴女、貴族令嬢の自覚があるんですか!? 未婚にも関わらず顔に傷を作って……! 跡が残ったらどうするんです、平民なんか後ですよ」
平民なんか。
わたしはその言葉に、言い返したくなる。
わたしの傷も、カインくんの傷も、どちらも死ぬようなものではないが、素人が見たって、わたしの傷よりカインくんの方が先に治療するべきだと分かるのに。
言い返そうとするわたしを止めたのはカインくんだった。
「オルテシアさん、先に治療を受けてください。傷をつけるな、と団長たちから命令されていたのに、守り切れなかったのは自分の責任です」
「そんなことないです!」
わたしは思わず声を荒げた。
カインくんが前に出てくれなければ、今、カインくんが負った傷はわたしについていたはずだ。カインくんの傷は絶対跡になる。
だから、カインくんの方が先に治療を受けるべき。
そう言い返したいけれど、今、この、二対一の状況でわたしがごねると、いつまでもカインくんに治療の順番が回ってこない。
「――それに、オルテシアさん。確かに貴女は擦り傷ですけど……結構凄いことになってます」
「顔だから見えていなくて気が付かないだけかもしれないっす」とカインくんは言う。
「え――」
思わず擦り傷があるであろう場所を触ると、明らかに、肌へ食い込んでいたと思われる小石が取れる感触がした。指先を見れば、血のついた小さな石の粒がのっている。
「…………」
わたしの想像だと、ちょっと擦っただけだと思ってたんだけど――もしかして、結構、酷い?
「オルテシアさん、自分のためにも、先に治療を受けてください。お願いします」
泣きそうな顔でカインくんに言われてしまうと、もう反論できなかった。ごねた方が彼の治療の時間が遠のく、というのもそうだったけれど、彼の声音が、あまりにも切実だったのだ。