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「今日はカインを連れてブラッシングしてもらえる? 何かあったら守って貰って」
件の子は一番奥で、今日は手前の檻にいる人だけをブラッシングするらしい。近付かなければ暴れないので、奥には絶対行かないこと、と注意された。
「うーん、いや、でもやっぱり危ないし、今日は休みにする?」
注意しながらも、未だ迷いを見せるアルディさんに、わたしは「大丈夫ですよ」と言う。今日獣化したばかりなら、今日だけ、というわけでもないだろうから、他の人のブラッシングができなくなるのは可哀想だし、近付くと警戒されて引っ掻かれるのなら、近付かなければいいだけの話である。
だからこそ、檻の位置をそういう配置にしたんだろうし。
「ちゃんと近付いちゃ駄目な檻には近付かないですし、カインくんもいるならなんとかなりますよ」
一日くらいなら確かに提案された通りに休んだけれど、数日間休みになるのは少し気になってしまう。近付かないよう注意をされて、配慮もされているなら、これ以上は大丈夫だと思うのだ。
それに、檻の中に入った際、少し面倒ではあるけれど、いつものように開けっ放しではなく、扉と鍵を閉めれば、仮に奥の檻から出てくるようなことがあっても、会わなくてすむ。
獣化した獣人が出て行かないようにする為の檻なら、そう簡単に突破できるとは思えないし。
「一応、なんの動物か聞いておいてもいいですか?」
流石に熊とかライオンとか、そういう獰猛な動物だったら前言撤回して休ませてもらいたい。暴れる熊がいる空間でブラッシングとか、例え檻を隔てていても怖い。
わたしが猛獣に獣化している獣人を怖がらないのは、あくまで意思疎通ができるからだ。猛獣そのものが平気なわけではない。
でも、アルディさんの怪我の様子を見るに、そこまで狂暴な感じもしないけど……。引っ掻き傷もそこまで深そうじゃないし。
わたしの予想通り、「犬だよ。中型犬より少し小さいくらいかな」という言葉が帰ってきた。
犬かあ。それならまあ、なんとかなりそう。犬も犬で、人より強いときもあるけれど、何も面と向かって戦いに行くわけじゃないし。
うん、大丈夫でしょう。
「……それじゃあ、カインを呼んでくるけど、絶対、無理しちゃだめだよ。最悪、あいつを盾にしてもいいから」
「盾って……」
「あのくらいの犬に負けるような鍛え方はしてないから、盾にしても問題ないよ」
そう言って、アルディさんは退室していく。
残ったハウントさんに、「無理はしないでください。危険を感じたら、すぐにカインを頼ってくださいね」と念を押された。
そんなにすごく暴れているの……? 逆に不安になってきたな。