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 ジルに案内されて連れてこられたのは、化粧品を主に扱う店だった。ジル曰く、貴族区にも平民区にも、いくつもの店を構える大商会が経営する店らしい。わたしは知らなかったが、かなり有名な店なのだとか。


 わたし自身、こういう店の立ち寄ったことはないし、使いを出して何か買ったこともない。全く興味がない、というわけでもないけれど、なんだか気がひけてしまうのだ。

 貴族が贅沢をすることで、経済が回ったり、新しい物が産みだされたり、と技術が進歩するというのも事実で、過剰ではなければ贅沢は悪いことでない、というのは分かっているんだけど、でも、自分で稼いだお金でもないのに、自由に使うのはためらわれたのだ。

 ましてや、王族に嫁ぐのであれば、金銭感覚が庶民的な方がいいのかな、なんて思うこともあって。まあ、その結果が地味姫の誕生なのだが。


 でも、こうしてきらきらとした商品に、それを見る楽しそうな女性たちの横顔をみていたら、もう少しこういうのに興味を持っていても良かったのかな、なんて、今更ながらに思った。こういう産業を知っておくのも、必要なことだったよなあ、と。


「お嬢様、こちらへどうぞ」


 姿勢のいい店員がわたしを案内してくれる。侯爵令嬢ともなれば、別室で椅子に座りながら案内をしてもらえるらしい。

 案内された部屋のソファに座ると、少しして、小さな小瓶をいくつか持ってきてくれる。


「こちらが新発売の洗髪液になります」


 あくまで見本品なのか、手で握って隠せてしまうほどの大きさの瓶が並んでいる。

 その内の一つを取って、きゅぽ、と蓋を取る。とろっとした淡い赤色の液体の入った瓶だったが、かなりキツイ花の匂いがする。もう少し薄ければいい香りなのかもしれないけど、ここまで強いとちょっとむせる。


 人間のわたしが強い匂いだと感じるのだから、獣人にはもっとキツいかもしれない。獣人は身体能力に優れていて、同時に五感も人間より優秀であることが多いらしい。

 どの感覚が人間よりも優れているのかは獣人の種類にもよるらしいけど……虎の嗅覚はどうなのかな。


 ――……いや、なんで今、アルディさんのこと、思い出したんだろう。確かに彼にはお世話になっているけれど、一番に気を使うなら、カインくんのほうじゃない? わたしの教育係だから、わたしが第二騎士団にいる間は、彼が最も一緒にいる時間が多い。

 でも、カインくんがなんの動物か知らないしなあ。


 それに、獣化していたら獣人のときより嗅覚が優れそうではある。これはわたしの勝手なイメージだけど。そうなると匂いがキツいものは手が出しにくい。

 しかし、ここまで来て一本も買わない、というのは店に悪いかな、と、何か買おうと、匂いを一つずつ嗅いでみるけれど、そういうものなのか、どれも匂いがキツイ。だんだん正しい匂いが分からなくなってきてしまった。

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