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――なんて、ことを考えていたのだが。気が付けばサンドイッチも全て食べ終えていた。でも、ルナトさんがなにか話しかけてくることはない。
既に獣化した皆さんへのご飯は用意し終わって、それでもまだ残って、ほうき片手に掃除をしている――ふりをしているようだった。さっきから全然、掃き掃除をしている場所が変わっていない。
ちらちらとわたしの様子を見ているようだったから、何も用事がない、ってことではないと思うんだけど……。味の感想は言ったし。
「あの、ルナトさんは食堂行かなくて大丈夫なんですか?」
「は? いつ行こうがオレの勝手でしょ」
……わたしに用事がある、というのは自意識過剰だった……? もし用があるなら、早く話して食堂行かないとお昼ご飯を食べる余裕がなくなってしまうのでは? という意味で言ったつもりだったんだけど。
これは単刀直入に聞かないと駄目なのかな。でも、アルディさんに割り込まれたとき、怒って行っちゃったり、言動から感じる性格からして、「何か用ですか?」と言っても「別になんでもない!」と怒って出ていく姿が想像出来てしまう。
難しいな……。
どうやって話を切り出そう、と考えていると、「あのさ……」と、小さい声で、ようやくルナトさんが話始めてくれた。
「あの――こ、この間は、ごめん……なさい」
予想外に、謝罪だった。この間……アルディさんが話に入ってきたとき、怒って行ってしまったときのことだろうか。
「い、威嚇、しちゃって、その……」
危ない。下手に相槌を打たなくて良かった。また話がこじれるところだった。
威嚇、っていうのは、わたしが「小さい」と言ったときのことだろう。あのとき以外に、獣化したルナトさんに怒られたことないし。
「で、でも、もう、次は許さないからな! 二度とオレのこと、小さいとか言うなよ!」
さっきまでのしおらしさを誤魔化すように、なのか、ルナトさんはやたらと大きな声で言い、乱雑に持っていたほうきを片付ける。
「あ、あと、ブラッシング、よかっ――悪くなかった! じゃあな!」
まくしたてるように言ったかと思うと、ばたばたとルナトさんは走って部屋を出て行ってしまった。あまりに早い走りに、わたしはしばらく乱暴に閉められた扉を呆然と眺めていたが――自然と、口元が緩んだ。
変に嫌われているわけじゃなかったし、ブラッシングも及第点だったらしい。
「午後も頑張ろ」
わたしはそんな独り言をこぼして、紙袋を片付けて、ブラッシングへと戻るのだった。




