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レタスとトマトが挟まった、シンプルなサンドイッチが三個。予想外の紙袋の中身に、思わず顔を上げてルナトさんの方を見れば、ばっちり目が合った。いつからこっちを見ていたんだろう。
目があったことに気が付いたルナトさんは、少し動揺したように「なに」と声を上げた。そして、わたしが何かを言う前に早口で言葉をまくしたてる。
「言っとくけど、文句は受け付けないから。レタスとトマトが入ってれば十分でしょ。パンそのままよりマシだし。……ハムとチーズ、なかったし、卵ゆでる時間ないし……」
だんだんと言葉が小さくなっていくが、一応、何を言っているのかは分かる。聞こえる、けど、思い間違いじゃなければ、まるでルナトさんがわざわざ作ってくれたかのように聞こえる。
「もしかしてルナトさんが作ってくれたんですか?」
試しに聞いてみると、ルナトさんの顔が徐々に赤くなっていった。肌が白いから、顔が赤くなると分かりやすい。
「わ、悪い!? お嬢様の口には合わないかな!?」
棚から物を出し切ったのか、バン! と乱暴にルナトさんが扉を閉める。
「いえ、嬉しいです。ありがとうございます。丁度お昼ご飯をどうしようか迷っていたので、助かりました」
素直にお礼を言えば、ルナトさんは言葉に詰まっているようだった。
わたしはパッパと軽く、服についた毛を払って、近くにあった木箱を椅子替わりに座る。もう一度、ルナトさんにお礼を言って、サンドイッチを口に運んだ。
すごくシンプルだけど、だからこそ、変に凝っていなくて美味しい。家で出る料理が凝っていて豪華なのは事実なんだけど、こういう素朴な味の方が染みるというか。
さっきまでお腹が空いていない、と思っていたはずなのに、いざ、サンドイッチを食べると空腹だったことに気が付く。
これは、今食べなかったら後で半端な時間にお腹が減って、困るパターンだっただろう。冗談抜きで助かった。
一つ目を半分くらい食べ進めたところで、視線に気が付く。見れば、また、ルナトさんと目が合った。
「おいしいです」
そう言えば、ルナトさんは「ふ、ふーん……」と興味ない、と言いたげな口ぶりで返事をした。まあ、平静を保っているのは声だけで、こちらを気にしているのは彼の耳を見れば分かる。
……そう言えば、アルディさんが髪飾りをくれたとき、先に声をかけていたのはルナトさんの方だ。明らかになにか用事があった風だったけど、あれから一度も話ができていない。
獣化した獣人たちはたくさんいるけれど、二人きりと言えば二人きり。この間のことを聞くのには丁度いいかもしれない。
もしかしたら、ルナトさんもそのためにここに来てくれたのかな。あれこれ、獣化した獣人の昼ご飯を用意しているから、そのついで、かもしれないけど。




