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集中していると、正午を知らせる鐘が鳴って、びくりと肩が跳ねる。集中しすぎて全然時間を気にしていなかった。
「――っ、あぶな……っ」
わたしは慌てて膝の上に置いていたモルモットをパッと支える。肩が跳ねて、その振動で膝から落ちそうになったのである。本当のモルモットと違って、ブラッシングを嫌がらない。ぐでん、とリラックスしてお腹を見せていたから、余計に落ちやすくなっていたのだろう。
しかし、モルモットって。そんな動物も獣人になるんだ……。獣人に戻ったときの姿が見てみたい。ルナトさんは身長の低さを気にしていたし、アルディさんは虎と言われてもおかしくないくらい、なかなかに高身長。
もしかしたらある程度、獣化したときのサイズに比例するのかもしれない。興味本位で見に行っても嫌がられないかな。
それにしても、もうお昼か。午前中は手早く終わらせられる、あまり体が大きくない人からやっていったから、運動量的にはたいしたことがなくて、集中していたのも相まってか、お腹がさほど減っていない。
このまま昼休憩すっ飛ばしてブラッシング続けようかな。あ、でも、昼食のための休憩なんだから、ここにいる人たちもご飯になるのか。それだと逆に邪魔になっちゃうかな。
既にブラッシングが終わったモルモットを寝床に戻しながらどうしようか考えていると……。
――ギィ。
扉が開かれる音に、わたしは思わず様子を見に行った。カインくんが迎えに来てくれたのかもしれない。
そう思って行ってみたのだが、そこにはルナトさんがいた。何か紙袋を持っている。
「こんにちは」
声をかけると、ルナトさんは驚いたように、一歩後ずさった。こうして立って向かい合うのは初めてだけど、わたしとほとんど目線が変わらない。
わたしがいるって知ってると思ったけど、そんなに驚かせちゃったかな。「すみません」と謝ると、ぎっと睨まれた。幼い顔立ちの彼が睨んでも、迫力自体はないのだが、なにか怒らせてしまったのか、と不安な気持ちになる。
「……これ」
ずい、とルナトさんが持っていた紙袋をわたしに突き出してくる。わたしがそれを見ていると、軽く振って、再び存在を主張した。受け取れってことなのかな。
おとなしく両手を出すと、押し付けられるようにその紙袋を渡された。
「えっと、これは……」
「あ、開ければ分かる……、り、ます」
不服そうに敬語を使うルナトさん。
「別に敬語じゃなくてもいいですよ。ここではわたしが後輩ですし」
わたしがそう言うと、ルナトさんは黙って棚の方へと向かって歩き出した。その様子を見ていると、棚からカットされた野菜や果物、調理済みの肉らしきものが出てくる。あれ、冷蔵庫だったんんだ。いつも、ブラシが収まっている棚の引き出しくらいしか開けたことがなかったから、気が付かなかった。
あまりじっと見ているもの失礼かな、と思って、わたしは貰った紙袋の中身を確認する。
何か、ブラッシングに必要な道具かな、と予想していたけど、全然違った。
中に入っていたのはサンドイッチだった。