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王宮に併設された待合室で迎えの馬車を待つ。婚約破棄を行った日は馬車の方を待たせていたから、お父様の用事が終わるまで中庭のガゼボでお茶を飲んでいたけれど、基本的には待合室で迎えを待つことの方が多い。リアン第二王子がまだ婚約者だったころ、王城に出向いたときは待合室で帰りの馬車を待った。
もうしばらくはここに来ることもないだろう、と思っていたのに、不思議なものである。
しかし、やっぱり婚約者でなくなったからか、いつもの待合室ではなかった。内装が少し違う。
もちろん、グレードが下がったというわけではないし、以前の待合室と変わらずに絢爛豪華な装飾が施されている。
ただ、前までは毎回同じ待合室だったのに、今日はいつもの待合室ではない。わたしが『第二王子の婚約者』から、『侯爵令嬢』に戻ったからだろう。他の侯爵家と扱いが一緒になったということだ。
わたしは別に悔しくもなければ悲しくもないけど。でも、この先お父様は大丈夫なのかな。
わたしの婚約破棄は、すごく地味で事務的だった。物語のように、観衆の中でまるで罪をつまびらかにし、罰を与え晒し者にされるようなことはなかった。
でも、だからこそ、わたしは婚約破棄されてしまった理由はしらない。
リアン第二王子は華やかな人だったから、地味姫と笑われるわたしを疎んでいたことは知っている。でも、そんな感情論だけで王族との婚約がどうこうなるわけがない。だから、何かしら問題が発生したからこうなったはずなんだけど……。
そして、その問題を対処するのはお父様のはず。大変なことになっていないといいけれど。
そんなことを考えていると、扉がノックされる音が聞こえてくる。もう迎えが来たのかな、と思っていると――。
「ごきげんよう! オルテシア」
「ご、ごめんなさい……」
室内に控えていたメイドが扉を開けたその先には、第一王女のルルメラ様と第二王女のフィオナ様が、彼女ら付のメイドと共に立っていた。
第一王女と第二王女は双子で、わたしの二歳年下なのだが、性格は正反対。ルルメラ様は明るくはつらつとした性格で、フィオナ様の方は他人におびえがちで大人しい性格だ。こう表現したら失礼かもしれないが、常にルルメラ様のような方が隣にいたら、こう育つのも無理はない気がする。
あまり人と接するのが得意ではない者同士、フィオナ様とはそれなりに仲良くさせて貰っているが、ルルメラ様はわたしを地味姫とからかってくる貴族界の人間の一人でもあるから、あまり好きではない。
おそらくわたしが王城に来ている、と知ったフィオナ様がわたしへ会いに行こうとしたところ、ルルメラ様に見つかって一緒についてきてこられた、という感じだろう。さあわたしをいじって遊ぶぞ、という表情のルルメラ様と、申し訳なさで死にそうになっているフィオナ様の顔を見れば察するものがある。
……嫌なことになりそうだなあ。