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「訓練に戻るから」と言って去っていったアルディさんを見送ってから数分。わたしは檻の中に既にいた、獣化した獣人の方々と向き合っていた。
「一応、獣人は獣化したときに、他の獣と区別がつくように首輪をしてるんです。副団長みたいな猛獣の獣人は、野生でこの辺りにいないので、間違いようがないっすけど、猫とかだと結構ぱっと見た感じ紛らわしいんすよね。馬とかだと、厩から脱走したのと間違えるし」
確かに、ルナトさんは普通の黒うさぎにしか見えなかった。ここは王城なので、当然、動物一匹の侵入も気を使っている。だからこそ、獣化した獣人なのか、野性の動物なのか区別がつかないと問題が起きるのだろう。野性の獣だと勘違いして獣化した獣人を追い出してしまう、とか。その逆もまたしかり。
「獣人からだと区別はつくんすけど、人間はそうじゃないみたいなんで、分かりやすいものは必要っすよね」
「……首輪は嫌じゃないんですか?」
人間のわたしからしたら抵抗はある。リードがつながれていないからまだマシなように思うけど、好んでつける人はあんまりいないと思う。
「いえ、そんなには。制服の一部みたいなもんじゃないっすか?」
けれど、わたしの言葉に、カインくんはうなずかなかった。きょとん、としている彼の表情を見るに、本当に嫌じゃないんだろう。
「あ、首輪のタグで名前確認出来るんで、ブラッシングする前にチェックしてくださいね。共用が嫌な奴はすげー怒るんで」
言われて見てみれば、確かに首輪にはタグがついている。プレート状のタグはチャームみたいになっていて、獣化した獣人が動くたびに少し揺れる。
「さっきルナト先輩のブラッシング見てた限りは全然問題なかったんで、三人分、任せちゃっていいっすか? 自分は適当に掃除でもしてるんで、何か分からないことがあったら聞いてください」
「分かりました、頑張ります」
檻の中にいるのは、犬の姿に獣化した人が二人、馬が一人。……馬かあ。馬は流石にブラッシングしたことがない。そもそも、日常生活で馬と触れ合うってこと、あんまりないよね。牧場で乗馬体験くらいはしたことがあるけど……。
でも、虎だってブラッシングしたことないけど、本人が気に入るくらいのことできたのだから、やってやれないことはないはず。……一応、最後にしてカインくんに手順だけ教わろうっと……。
しかし、虎にうさぎ、犬に馬とは、本当に幅広く獣人っているんだなあ。犬猫やうさぎなど、ペットとして主流の動物や、それに近いものなら前世でやっているからある程度の勝手は分かるけど、動物にはいろいろいるわけで。
ゾウやキリン、パンダみたいな、動物園御用達の獣人が出てきたらどうしよう。思っていたより大変そうだ。
でも、一回引き受けたんだから。少なくとも、王城解放日が無事に終わるまでは、しっかり頑張らないと。――それに、確実に喜んでくれる人が、一人はいるから、少しくらいは、自信を持ってもいいのかもしれない。