02
おそらきれい。
わたしはぼーっと庭園で、空を眺めていた。
父親――お父様はまだ宰相と話があるようで、わたしだけが、この庭園の、ガゼボのような場所に案内された。お父様の用事が終わるまで、わたしは待っていないといけないらしい。
ケーキやら紅茶やら、あれこれ用意はしてあったけど、食べる気になれなかった。
周りから見れば、婚約破棄にショックを受けるご令嬢、という風に見えるのかも知れないが、今のわたしは転生してしまったことに対して、どうしようか、という気持ちしかない。どうしようか、なんて考えたところで、どうしようもないのだが。
どうして今、わたしが『わたし』でいるのか、この世界はどんな世界なのか。――前世のわたしは、どうなってしまったのか。
知りたいことはたくさんある。
でも、その質問に答えてくれる人は、誰もいないように思えた。
わたしが前世の記憶を思い出した、なんて言い出したら、確実に虚言だと思われるだろう。地味姫が、他人の気を引くために何か言い出したぞ、と嘲笑されるのが簡単に想像できる。タイミングがタイミングだし。
この世界のことを知りたい、なんて言ったって、わたしは既に第二王子の妃となるべくして教育を受けてきた身。らしい。そんな人間が、今更初歩的なことを聞いたところで、「御冗談を」と言われるに決まっている。
これに関しては『記憶』を引っ張りだしてくればいいのかもしれないが、どうやら地味姫は頭の出来も地味だったようで、なんとなく知識を思い出すことは可能でも、ところどころ理解できないでいる。
そして、前世のわたしがどうなったのか、なんて。そんなの、それこそ神様しか知らないだろう。
欲しい情報は、何にも手に入りそうにない。
せめて屋敷に戻ったら書庫で、この世界の情報に関するものを読めないかな、なんて考えていると、「ひ」と小さく悲鳴が上がった。
その聞こえた方を見れば、さっきまでわたしの給仕をしていたメイドが、一点を見つめて顔を青くしている。
なんだろう、とその視線の先をたどると――虎がいた。
……虎?
なんでこんなところに虎がいるんだろう。一応、王城らしいから、野生の虎が忍び込んだとは考えにくい。誰かのペットかな。
前世の記憶が蘇る、なんて不可思議な経験をしたばかりだからか、目の前に虎がいても、どうにも現実味がない。
よくよく見てみれば、虎は首輪のようなものをしていた。やっぱりペットじゃん。
そして、彼か彼女かは分からないが、虎は大きなブラシを口にくわえていた。
虎は、のしのしと、顔を青くしているメイドを避けるようにしながらわたしの前まで来た。メイドが怖がっているのが分かるのだろうか。
ちょこん、と行儀よく座ったかと思うと、虎はわたしの前にブラシを置く。その行動は、実に慣れた様子だった。
虎の表情が豊かに見えるだなんて――やっぱり、これは夢なの?
わたしはつい、ブラシを取る。柄の部分が虎の唾液のせいか、ちょっとべたついている。
わたしはブラシと虎を、交互に見る。
「――ブラッシング、してほしいの?」
虎は大きくうなずいた。まるで、人間であるわたしの言葉が理解できているかのように。