表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/122

17

 まさか見られているとは思わなくて、びっくりしてブラシを落としてしまった。拾おうとしても、ルナトさんが膝にいるから非常に拾いにくい。……というかルナトさん、寝てないか、これ。

 なんとかルナトさんを落とさず、起こさずにブラシを拾えないかと苦戦していると、アルディさんがひょいっとブラシを拾ってくれる。


「あ、ありがとうございま――」


 差し出してくるのでありがたく受け取ろうとしたのだが、アルディさんはブラシから手を話してくれない。性別の差なのか、普段から鍛えているかいないかの違いなのかは分からないけど、びくともしない。

 なんで? と不思議に思っていると、「ずるい」とアルディさんが呟いだ。


 ずるい? ……もしかして、ブラッシングしたルナトさんに対してずるいってことなのかな。アルディさんもブラッシングしてほしい……とか?

 でも、今、彼は獣人の姿で、獣化した獣の姿じゃない。先日のときのようにブラッシングするわけには……。


「え、ええと……髪をとかしましょうか」


 今、彼にクシが通せる毛は髪の毛くらいしかない。かといって、このままブラシを返してもらう口実が思いつかなかった。

 ぴくっと彼の耳が動く。


 流石に失礼だったかな、と思ったのもほんの一瞬。ぱっと明るい笑顔を見せられれば、嫌がっていない、というのがすぐにわかる。表情筋こそ大げさに動いてはいないが、ほとんど無表情ばかりだったアルディさんにしては、随分と分かりやすい。


「ブラシ取ってくる。あ、カイン、ルナトを定位置によろしく」


 そう言ってアルディさんはルナトさんをわたしの膝の上から抱き上げ、カインくんの腕に抱かせる。乱暴な様子ではないが、とても動きが素早い。


「……本当にブラッシング、好きなんですね」


 こんなことくらいでそんなに喜んでもらえるとは思わなかった。


「まあ、ルナト先輩とか、見た目が狂暴そうじゃない獣人はそれなりにブラッシングしてもらえるんすけど、副団長みたいに、虎とか、ライオンとか、猛獣と似た姿に獣化する獣人はブラッシングをなかなかしてもらえないから、結構ストレス溜まってるんだと思います」


 だからたまにこの牢から抜けだす人もいるんすよ、と教えて貰った。ということは、前回わたしがたまたま遭遇したのは、その脱走中のことだった、ということか。ブラッシングしてくれる人を求めて城中を歩き回っていたのかもしれない。


 ……ん、あれ? 今、副団長って言った? アルディさん、副団長なの?

 そんなにすごい人だったなんて……。あ、でも、皆平等に扱うから、と言っていたっけ。それって、こういうことだったのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ