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ルナトさんがおとなしくなったので、わたしは彼をブラッシングすることになった。
「ブラシはここの物を使ってください。ちなみに隣の棚は掃除用具が入っているんで、必要があれば自由に使ってもらって構わないっす」
ブラシが入っている、という棚は、わたしよりかなり高い棚で、一番上はわたしの身長だと背伸びしても少し届かない。同時にかなり幅もある。引き出しがいくつもついていて、引き出し一つひとつに動物の種類が書かれていた。文字は前世のものと違うけど、問題なく読むことができる。
その中からうさぎ、と書かれた引き出しを開けると、中には数本のブラシが入っていた。
「ルナト先輩は共用の奴で大丈夫っす。こだわりがある人は専用のブラシがあるんで、それを使ってください。ブラシの柄に名前が彫ってあればその人専用で、何もなければ共用です」
「なるほど、分かりました」
わたしは柄に彫りがないことを確認してブラシを取り出す。
「グルーミングスプレーはどこですか?」
長毛種じゃないからなくてもいいかな、とは思ったけど、あるなら使ったほうがいいだろうとカインさんに聞いたのだが、首を傾げられてしまった。……どうやらこの世界には存在しないらしい。
ないならどうしようもない。
「ええと……それでは失礼します」
わたしはアルディさんからルナトさんを受け取り、少し迷って、近くの木箱に座って膝の上へ彼を置いた。床はなんか……綺麗ではあるけど冷たそうだし、抵抗がある。わたしはブーツを履いているから、正座をしても気にならないけど。
前世の家で、犬や猫はたくさんいたが、うさぎは一時期、一匹だけ飼っていたくらいだ。通っていた小学校の、校舎の増設の関係で飼育小屋を取り壊すことになったのだが、そのときにいた数匹のうさぎのうち、一匹が我が家にやってきたのである。
犬猫よりは慣れていないものの、全くできないわけではない、というレベルなので、ちょっとだけ緊張する。
まあ、本当の動物と違って、よっぽどのことをしない限りは暴れないだろうから、やりやすくはあるけど。
ルナトさんの体をなで、浮いてきた毛を取るように優しくブラシをかける。それを繰り返していると、結構な量の毛が取れた。
……もしかして、換毛期になると獣化するのかな。二か月に一回は結構なペースだと思うけど。でも、そのくらい抜けている。
うさぎ相手のブラッシングなので、時間自体はそんなにかからない。
こんな感じでどうでしょう、と聞こうと思って顔を上げると、わたしのことをじっと見ていたのか、アルディさんと目が合った。