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パッと見た感じは普通のうさぎとなんら変わりはないけれど、獣人が獣化した場合は表情筋の造りが違うのか、分かりやすく不満そうな顔をしている。不満そう、というか、怒っている、というか。
何か失言してしまったのだろうか。失言、というよりは、態度が気安かった、とか?
でも、確かに、見た目はただの黒うさぎだとしても言葉がが通じるのだ。自己紹介もせず、彼を放置して勝手に話を進めるのはまずかったのかも。
なんで怒らせたのか分からないでおろおろしていると、カインくんは耳打ちをしてくれた。
「ルナト先輩、低身長なの気にしてるんですよ」
その一言で流石に察した。小さい、という一言がこの黒うさぎ――ルナトさんにとって、地雷だったらしい。
謝りたいけど……でも、謝ったら謝ったで、彼のプライドを傷つけたりしないだろうか。小さいって言ってごめんなさい、なんて、身長を気にしている人に謝るのは煽りでしかないような気がする。
なんて謝ろう、と言葉をひねり出していると、アルディさんがきゅっとルナトさんの両耳をまとめて持つように握った。その瞬間、さっきまで「ブブゥ」と低く短く鳴いていたルナトさんがシュッとおとなしくなる。
「だ、だだ、駄目ですよ! うさぎの耳握ったら!」
わたしは思わず声を上げてしまった。持ち上げることこそしていないが、うさぎにとって耳は非常に大事な器官だ。即死するようなことは流石にないが、続ければストレスで命に関わるレベルの行為なはず。
それが獣化した獣人にも適応されるか分からないが、ルナトさんがおとなしくなったところを見るに、何も感じていないわけではないはずだ。
アルディさんはパッと手を放したが、悪びれた様子はない。
「うさぎの獣人はこうするとおとなしくなるから。本物のうさぎよりは頑丈だから、少しなら大丈夫」
そういう問題なんだろうか……。というかその口ぶり、わりと普段からやっているな?
「オルテシア嬢はわざとじゃないし、知らなかったんだから、最初くらい、許してあげなきゃ。ましてや君、今、獣化してうさぎなんだから」
ルナトさんへ言い聞かせるように、アルディさんは言った。ルナトさんは、こくこくと何度も首を縦に振っている。そんなルナトさんの表情は、どこか焦っているように見えた。
耳を握られたのがよっぽど嫌だったのか……いや、それじゃあやっぱり獣化している獣人でも、うさぎなら耳触っちゃダメなんじゃ……。
可哀想、と思いながらも、ちょっとだけ助かったのは事実なので、わたしはこれ以上、なにも言えなかった。いやまあ、酷い言い分であるのは自覚しているけれど。
謝罪の文言が浮かばないので、せめてブラッシングを誠心誠意やらせてもらって、行動で謝意を表そう、と、わたしはこっそり心に誓った。