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なんてことを考えていると――。
「……あれ、先客?」
背後から声がした。思わず振返ってしまうと、そこには金髪が綺麗な青年が、兎を抱きかかえて立っている。
記憶の中にある、わたしが婚約していたリアン第二王子もなかなかの美形ではあったけど、それを上回る美人っぷりだ。
そんな彼の耳は、人間のものではなくて、頭頂部と側頭部の境界あたりに生えている、獣のもの。獣人なんだろう。
そして、彼が着ている服は第二騎士団のもの。
今日入ったばかりのわたしからしたら、先輩にあたる人か、と挨拶しようと完全に体を彼の方に向ける。目線が合うと、パッと彼の表情が明るくなった。……いや、無表情なのは変わりないけど、目がきらきらしだした、という感じだが。
「……! 君、話を受けてくれてありがとう。あの、僕、アルディ。アルディ・ザルミール」
アルディ。……どこかで、聞いたような……。
あっ、わたしがブラッシングした虎の名前だ。わたしのブラッシングが良かったと、あちこちに言いふらしていた、という獣人の名前でもある。
確かに金髪はちょっとオレンジっぽくも見える。虎、と言えなくもない色合いだ。
「初めまして、ではありませんが……わたしはオルテシア・ケルンベルマと言います。一か月ほど、お世話になります」
「よ、よろしく。僕の立場だと皆平等に扱うから、敬語は使わないけど、別に歓迎していないわけじゃ――わ、っとと」
彼が手を差し出そうとして、彼の腕の中にいた黒うさぎがずり落ちそうになる。
「それ、誰っすか?」
「ルナト。予定より早く獣化しちゃったみたい」
目の前でされる、カインくんと美青年――アルディさんの会話。それを聞くと、本当に獣人って獣の姿になるんだなあ、なんて実感させられる。あの虎が、アルディさん、というのもちょっとイコールでくっつかないのだが……。
でも、彼らに取っては珍しくもなんともないことなんだろう。会話に焦りもなにもない。人間であるわたしには不思議な感じがするのに。
「そうだ、丁度いいし、ルナト先輩から試しにブラッシングしてみますか」
カインくんがわたしにそう提案してくれる。
確かに、アルディさんをブラッシングしたときはそこそこ疲れたし、小動物サイズから始められるのはいいかも。
……それにしても、アルディさんに抱きかかえられている黒うさぎは普通の、その辺にいるうさぎと大差ない。虎は大きいから気が付かなかったけど、人間のときの大きさに合わせて獣の形になるんじゃなくて、元の動物のサイズに合わせて獣化するんだ。
……体の造り、どうなってるんだろう。獣人自体、前世にはいなかったし、そういう細かいところ考えるだけ無駄な気もするけど……。
いやでも、流石に人間サイズのものが抱えられるくらい小さくなったら、差分がどこにいったのか気にはなる。
「確かに、このくらいの大きさだと手始めにはやりすいですね。小さいですし、時間もかからないかと――」
わたしの言葉に、「あっ」と二人が声を上げる。何かまずかっただろうか、なんて疑問を抱いたのも一瞬。
わたしに抗議するように、「ブ、ブゥッ」とうさぎが低く鳴いた。