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「静かに」
国王の一言で、貴族たちは口をつぐみ、沈黙が広間に戻る。……ルルメラ様だけが、未だに騒いでいたけれど。
国王は、ルルメラ様に対してなんの反応も示さないまま、淡々と、今回の事件について、事実と処罰を話していく。
獣人を人間に変える薬をブロデンド子爵家と共に開発していたこと。
実験と称し、非人道的な行為が行われていたこと。
その途中で、違法薬物に手を出していたこと。
今回、剣術大会の開催中に、獣化していた獣人を殺そうとしていたこと。
「このような行いは、到底許されるべきではない」
重く、低い、国王の声。
こんな結果になってしまったことの理由が並べられると、流石のルルメラ様も黙っていた。なるべくしておとなしくなった、というよりは、国王の並べた言葉が信じられなくて処理落ちしているように見えるけれど。
話を続ける国王によれば、リアン王子は王家から追放で、ブロデンド子爵家は領地の一部を没収され、現当主は交代、など、わたしが知らない処罰も結構あるようだ。完全に全て没収されないのは、今回の後始末を自分たちでさせるためだろう。
リアン王子やブロデンド子爵家だけではなく、獣人を人間に変え、獣人を絶やそうとすることを良しとしていた国の重鎮たちも、まとめて引退させられるようだ。
「では、次に、今回の一件に関して、解決に向けて行動した者へ、褒美を与える」
一通り、リアン王子たちへの処遇を伝え終えた国王が、少し間を置いて言った。
初めに呼ばれたのは、ハウントさんだった。次は第二騎士団で見かけたことがある人、第一騎士団の式典用の制服を着ているけれど全然知らない人、と、ハウントさんやアルディさんだけではなく、複数人が今回の事件に関わっているようだ。
呼ばれる順番は、国王の話す内容からして、リアン王子の薬品開発の一件に関しての貢献度、というよりは、役職や家の地位の順番で呼ばれているらしい。
ねぎらいの言葉と、褒章、それから、何人かは望む報酬を聞かれている。王から望む物を聞かれている人たちは、特に活躍した人たち、ということか。
「――最後に、アルディ・ザルミール」
アルディさんの名前が呼ばれた。現状では、子爵家の人間なので、最後になったようだ。
子爵家の人間である彼は、わたしよりずっと後ろの方の場所にいるので、振返る分けには行かないが、聞こえてくる足音に違和感はない。――少しして、彼が参列する貴族たちより前に出たことによって、アルディさんの姿を見ることができた。
かっちりときめ込んだその姿に、一瞬見とれてしまう。
あの日、想いを確かめ合って、ある意味では結ばれたわたしたちではあったけれど――人は恋をすると馬鹿になるとはよく言ったものだ。お父様から聞いた結婚話をアルディさんに確認し忘れたことに気が付いたのは、アルディさんを見送った後どころか、一晩眠ってからだった。
後日話がしたいという内容の手紙を慌てて送ったが、時期が時期。多分、彼の元にようやく手紙が届いたかどうか、と言ったところだろう。
きっと、この後もアルディさんは忙しくなるだろうから、この話ができるのはまだ先になってしまうかもしれないが――でも、不安はない。
名前を呼ばれたアルディさんは、国王の前にひざまずいた。
「そなたには、伯爵位を与えよう」
国王の言葉に、再びざわめきが広がった。




