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そんなわけで、二日後。
わたしは再び第二騎士団の元へと脚を運んでいた。今日から約一か月、わたしは第二騎士団のブラッシング係となる。
前回会ったときに言われた通り、団長室に行くと、ハウントさんと、小柄な少年が立っていた。
「初めまして、自分はカインと言います! 今日から一か月、オルテシアさんの教育係になるんで、分からないことがあったらなんでも聞いてください!」
明るく朗らかに、少年――カインさんは笑う。獣の耳としっぽがある。獣人だが何の動物かは分からない。耳としっぽだけで動物を判断するのは、意外と難しいんだな、ということを、今、初めて知った。
「オルテシア・ケルンベルマと申します。よろしくお願いします、カインさん」
既に第二騎士団の制服に着替えてしまったので、スカートを持ってのカーテシーができない。軽くひさを曲げて頭を下げておく。
「カインでいいです! 確かに自分のが先輩っすけど、年下ですし、まだ貴族入りしてない平民なんで! 代わりにと言ってはなんですけど、砕けた口調を許してもらえれば……。学があまりないので、貴族のような喋りが難しくて」
「えっ? ええと……はい。では、カインくん、と」
いくら相手が平民だと言っても、先輩に当たる人を呼び捨てにはできない。騎士団、体育会系、ともなれば、先輩後輩の上下関係は厳しいだろうし。
……ところで、貴族入りってなんだろう。王室御用達品を取り扱う商会の商会長や、なにか目立った功績を残した人間には、褒章として男爵の爵位が与えられる法律になっているけど、それのことかな?
でも、正確には名ばかりの爵位で、領地は貰えないし、よっぽどの式典じゃないかぎりは社交界に参加できない。
だから侯爵令嬢のわたしからしたら、正式に貴族、とは思えないけど、平民からしたら、爵位があるだけで貴族の仲間入りを果たしたと思うのかも。
まあいいや、仕事に関わる重要なことならまた必要になったときに質問しよう。
「それじゃあ、カイン。後は頼む」
「了解です! ――それではオルテシアさん、軽く訓練場と食堂、詰所を案内しますね! 基本的にオルテシアさんは訓練場には行くことはないと思うんすけど、一応、場所の把握だけはしておいた方がいいと思うんで」
カインくんの言葉に、わたしはうなずく。一応、元王子の婚約者なので、城内の設備の場所は一通り分かっているつもりだが、それでも実際見た方が、より頭に入るだろう。
それに、第二王子から、行く必要がないと言われていて、騎士団の設備がある方に行ったのは今回が初めてである。
仮、とはいえ、仕事としてブラッシング係を引き受けたのだから、気を引き締めないといけないのは事実だが――ちょっとだけ、未知の領域に足を踏み入れるのは、楽しみだったりする。