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 第二騎士団の施設へと向かう際、アルディさんを見かけた人は、皆二度見をしていた。

 騎士団の人じゃない人は、恐ろしいものを見た、と言わんばかりの反応だし、騎士団の人たちは残念そうな表情を浮かべている。

 獣化した団員は剣術大会に参加しない。

 決勝戦で戦うであろうということを期待されていたアルディさんが獣化してしまっている、ということは、その戦いを見ることができないということだ。


「あ、すみません、オルテシア様。自分たちはこちらに。いつもの食堂に行けば、昼ご飯を提供するように連絡は行っていますので」


「あ――」


 アルディさんが向かうのは、食堂じゃなくて獣化棟の方らしい。副団長とはいえ、獣化したら扱いは同じのようだ。

 ――……。


「あの、後でまたそちらに行っても?」


 わたしが問うと、団員は驚いた表情を見せる。


「午後の部はいいんですか?」


 その言葉にわたしはうなずいた。今日はアルディさんの剣をふるう姿を見に来たようなものなのだ。彼が出ないなら、見る意味は半減してしまう。もちろん、ハウントさんがまだ残っているから、全く無意味ということは断じてないけれど、今、会場に戻ったところで、こちらが気になって仕方がないのは簡単に想像がつく。


「じゃあ、後で鍵を――って駄目なんでした」


 ヴォッドさんは首を横に振る。


「オルテシア様一人で獣化棟に入れるわけにはいきません」


「もしかして、また暴れている獣化の人がいる、とか……?」


 それなら流石に引き下がらないといけない。折角跡がなく治りそうなのに、二の舞になるのは駄目だ。


「それとも、もうわたしは行っては駄目なのですか?」


 完全にブラッシング係を辞めるとも残るとも言っていない今、わたしは微妙な立場だ。部外者と言えば部外者。昼食を騎士団の食堂で用意してくれるところを考えると、完全な部外者でもないと思うのだが。

 しかし、ヴォッドさんは「そうではないですけど……」と、言葉を濁す。


「その、オルテシア様一人なのが問題なんです。オルテシア様が何か悪さをするとは思えませんし、獣化した奴らが問題を起こすとは考えにくいですが、何かあったときに困りますから」


「……一応、一人じゃないですよ?」


 わたしはサギスさんを見た。無表情を貫こうとしているようだが、頬が少しひきつっている。彼はわたしと違っていきたくないんだろう。


「ああ、護衛がいるんですね。それなら――大丈夫、ですかねえ」


 途中で、アルディさんに話しかけるようにして、彼は問う。「くう」と、何とも言えない声で、アルディさんが返事をした。虎って、あんな風にも鳴けるんだ……。


「じゃ、一応、他の団員にも声をかけて起きます。さっき、平民エリアで揉めて手首を駄目にした奴がいるので、そいつを引っ張ってきますね。剣は持てませんけど、何かあったときに対応する頭と、助けを呼ぶ為の脚は健在なので」


 「そいつに鍵渡すように言っておきますから一緒に行ってください」と言われた。


「……ごめんなさいね」


 獣化棟に向かう二人を見送って、わたしは一応、サギスさんに謝った。


「――……悪いと思うのなら、怪我だけはしないでください」


 サギスさんの声音からは、明確な拒絶の色はなかった。職務を全うするつもりらしい。

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