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セフィロトの防人



 「大聖堂に襲撃なんて...」


 1発目に続いて2発、3発と爆発音が鳴り響き、砂埃は床に落ちる。この場の誰もが察したであろう。このままでは潰される。


 「ここに出口はない!取り敢えず出ましょう!」


 クライヤーがそう叫び、私達は短い階段を駆け上がる。


 「セフィロトの防人...ニルヴァーナ・クロックは処刑されたはずなのに...」


 アンは走りながら今回の騒動を考察していた。私なりに彼女の思考を察する。おそらくこれの犯人はセフィロトの防人という組織、テロリストであり、そのリーダーがニルヴァーナ・クロックなる人物なのだろう。


 「フランさん!俺たちの身体に変えてでもこいつは守ってみせるぜ!」


 死人が為に生者が命を賭す。考えてみれば奇妙な光景だ。その生き生きとした肉体よりもその冷たい物品の方が価値がある。


 「そういうことじゃ...」


 彼女が彼らに反論しようとした瞬間、視界の全てが暁色に染まり、爆音が耳鳴りを引き起こす。

 私は身体の反応、私自身の癖に従い爆風に対処できた。耳を塞いで目を閉じ、口を開ける。その動作の必要性と有用性を私の肉体は覚えていた。

 モスキート音が響き世界が揺れ、視野狭窄とした中で粉塵を掻き分ける。


 「フラン!」


 かろうじて私とフランとクライヤー、アンは無傷であるが、後ろにいた数人が瓦礫の下敷きとなった。皮肉なことに、あの死体には外傷一つ見られない。ただ動いていないだけである。


 「あぁ...いや!いやぁ!!!」


 フランは叫んだ。無理もない、最も恐ろしきものが私たちのすぐ傍にあるのだから。


 「誰かいるぞ!」

 

 セフィロトの防人、真理の守り人を自称する彼らにとって、その真理を犯さんとす彼女の声を聞き逃す筈がない。


 「フランを頼む。」


 私は駆け出しだ。どうか救助隊であってくれ、そう願いながら曲がり角を飛び出す。

 拳銃を持ち、カラベラを被ったいかにも怪しい男。その額部分には10のセフィラと22のパスがある。セフィロトの樹だ。


 「あんた...」


 銃を奪い、そして頭を撃ち抜く。命を奪うという行為を躊躇なく行った自分自身を強く軽蔑するが、それ以上に驚きがある。彼らは戦闘集団でありながら、突然襲ってくる、英雄症候群の民間人を対処できなかったという点だ。いくら民間人がヘビー級チャンピオンであっても銃に慣れている軍人やテロリストには絶対に勝てない。


 「軍隊のつもりか!」


 直感。そこの物陰に人がいる。左脚の力を抜き、倒れ込む。照準がカラベラの右眼に向く。

 私の弾丸は奴の右目を貫き、そのまま脳を損壊させる。奴の弾丸は私の右の二の腕に直撃し、貫通する。

 激痛、しかし肉体は未だに危険だと言わない。アドレナリンがそれを妨げている。


 「クソ!しかし、まだ何か!!」


 一人目の奴の装備を漁る。そこには手榴弾があった。それを奪い、さっきの曲がり角に戻る。


 「口を開けて目と耳を塞げ!」

 

 ピンを抜き、窓に投げつける。瞬間の閃光と爆音を経てそのまどは粉々になる。


 「アン、クライヤー、こっちに!」


 アンはフランに肩を貸しながらこちらに歩くよく見ると彼女は脚に怪我をしていた。


 「あらがとう、ニックさん。」

 

 クライヤーが礼を言う。あとででいいとそう返した。


 「二人は外に出たら振り返らずに走ってください。」


 3人で足を負傷したフランを持ち上げ脱出させる。


 「クライヤー、できるだけ早くお願いしますね。」


 それに続く形でアンが脱出する。


 「セクショデッドと品質が良いリビングデッドを運び出します。あなたは先に脱出していても構いません。」


 彼は瓦礫を退けリビングデッドを救助する。私もそれに続く。


 「僕も手伝うよ。」


 硝子、石、木、肉。それらの障害物を投げ捨てていく。


 「キー30300、キー40080、キー700986、そこをよじ登って外に出ろ。」


 そのリビングデッドは不気味なまでに自然体で歩いてゆく。こう見るとやはり生きているようにしか見えない。何せ彼らはゾンビ映画のゾンビの様に肉体が腐っている訳でもなく、小説によくあるくるった殺人狂の様に生気がない目をしている訳ではないのだから。ただ普通に、歩いているだけなのだ。


 「早くしてくれ!」


 クライヤーはリビングデッドのあまりにも場にそぐわない移動速度に対して怒りを露わにする。1人、1人とゆっくりよじ登り脱出してゆく、その動きはノロマでそして日常的だ。


 「さっきの礼です、先にどうぞ。」


 私はすぐによじ登りそこを脱出する。地面に着地し、すぐに走り出す。振り返るな。だが、直感が振り返れと言っている。私の直感はいつも正しい。


 「クライヤー!!」


 彼は頭から着地していた。彼の元に急いで駆け寄る。


 「眉間に穴...」


 後ろから撃たれ、前に穴が空いている。死とはこんなにも一瞬の出来事なのか。


 「あぁ、くそ!くそ!!」


 全力を振り絞って足を動かす。彼の死体とそして3匹のリビングデッドを背にして。

 

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