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「お前には、俺の家庭教師をやってもらいたい」

「……はあ!?」


 急なことに私は声を荒らげた。


「……お前って令嬢っぽくないよな」

「悪かったわね! あんただって王子様っぽくないわよ!」

「…………」


 イケメンが失礼なことを言うものだから、つい言い返すと彼は黙ってしまった。


(やば……不敬罪とかになるのかな)


「ふっ……はは……っ、はははは!」


 じっと俯いてしまったイケメンを見つめていると、彼は急に笑いだした。


(えっ、壊れた?)


 また楽しそうに笑う彼を唖然と見つめていると、イケメンは笑うのをやめて、真面目な顔をして私を見つめてきた。


 そのギャップに胸が跳ねる。


「俺の家庭教師を引き受けて欲しい」

「わた、しっ、たった今、シルヴァラン伯爵家を勘当されて……」


 真剣な瞳に押されながら、私は俯き、しどろもどろに答えるが、彼は気にせずに続ける。


「知っている。了承を得に来たら、伯爵にそう言われて慌ててお前を追いかけた。間に合ってよかった。これであの家の了承は必要ない。お前の了承だけだ」

「私……魔法省もクビになりそうで……」

「それは俺がさせないよう圧力をかけておいた」

「へっ……」


 イケメンの驚きな発言に思わず顔を上げると、ニヤリと笑った彼の顔が近くにあった。


「他には?」

「ええと、私は研究棟の人間で……」

「関係無い」

「魔力量も少なくて……」

「関係無い」


 私の断る理由を次々に潰していくイケメン。


「……関係無くはないですよね? この国は魔力量が絶対で……」

「関係無いと言っている。お前、魔法学校の教師だろう? 魔法学校の座学もトップで卒業したと聞いている」

「そうですけど……」


 私のことをそこまで調べたのか、と驚きつつも、未だに尻込みする私にイケメンが挑発した。


「何だ? 教える自信が無いのか? 座学はやっぱり重要ではないのか。それに、立場など関係無いと言ったのは嘘か――」

「嘘なわけないでしょ!」


 気付いたら途中でイケメンを遮っていた。


「あんた、魔力のコントロールが出来ないんですって? そんなの、呪文の詠唱と構築をしっかり学べば楽勝なんだからね! 魔力量に胡座かいてないで、ちゃんとやりなさいよ!」

「お前に教われば出来るようになると?」

「あったりまえでしょ!!」

「ふうん?」


 目の前のイケメンがニヤニヤと笑ってこちらを見ている。


(しまった!!)


 いつの間にか乗せられてしまっていた。


「……何で私なのよ……」


 はあ、と観念して馬車にもたれかかる。


「……言い返したから」

「へっ」


 ポツリと呟くイケメンの声が聞き取れなくて、私は身体を起こす。


「お前、あの時、俺の代わりに魔術師団長に怒ってくれただろ?」

「えっ……あれで?」

「うるさい! 元々、騎士団を悪く言うアイツらの世話になんてなりたくなかったんだ」


 ぽかん、とする私にイケメンは顔を赤くして、そっぽを向いてしまった。


「ははっ……、あんたって意外と義理堅いのね」


 可愛いとこあんじゃん、と嬉しくなった私は笑みを溢した。


「じゃあ、引き受けるからには「お前」じゃなくて、「先生」って呼んでもらおうかな?」


 まだ赤い顔のイケメンに向かって私はにんまりと言った。


「お前も……あんたって呼ぶなよ」

「ああ、殿下」


 そう呼んだ瞬間、そっぽを向いていた殿下がぐりん、と顔を私の方に向けた。


「ア、アドって呼べよ」

「いやいや、さすがにそれは不敬でしょ」


 何を今更、な発言だが、殿下に向かって私はきっぱりと断った。


「騎士団の奴らもそう呼んでるからいいんだよ!」


 何故か怒り口調で言う殿下に、そういえば隊長がそう呼んでいたな、と思い出す。


「じゃあ、アド?」


 私がそう呼び直すと、アドの顔がふわりと綻んだ。


(ひえっ!)


 イケメンの笑顔は破壊力がある。ましてや可愛くなかったアドの、そんな表情に私の心臓はドキドキと音を立てた。


「よろしく、ミュリエル」


 がしっと私の手を掴んだアド。


「ちょっと? 先生って……」

「ん?」


 抗議しようとした私を笑顔の圧で黙らせたアド。


(まあ、心を開いてくれたってことでいいのかな?)


 昨日出会ったイケメンとまさか師弟関係になるとは。そんな私たちを乗せて、ガタガタと石畳を走る馬車は、魔法省もあるこの国の王城へと辿り着いた。


「お帰りなさいませ。国王陛下がお呼びです」


 アドに手を借りて馬車を降りるなり、待ち構えていた黒い燕尾服の男性がお辞儀をしながら言った。


「さっそくか」


 息を吐きながらアドが言った。


「行くぞ、ミュリエル」

「は? どこに?」


 首を傾げていた私は未だ理解できず、アドに訊ねた。


「俺の親父……国王陛下の所だよ」

「は?」


 アドの顔を見て固まる、一秒ののち。


「はああああ!?」


 私は恥じらいもなく叫んだ。燕尾服の男性がこちらを見て眉をしかめていた。


 そんな私を見たアドは、ふっと口元を緩めると、私の手を掴んだ。


「お前は堂々としていればいい。あとは俺に任せとけ」


 やけに自信たっぷりなその瞳に、年下ながらも男らしさを感じてドキりとしてしまう。


「行くぞ」


 出会った時も、大人びているな、と思ったその瞳に導かれるように、私は彼に手を引かれるまま足を前に踏み出した。

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