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「あー……、アド、誤解するな? これは違う」


 隊長さんが何故かバツが悪そうにアドに言った。


「アド、もう練習試合終わったの?」

「お前……また見てなかっただろ」


 駆け寄る私にアドがジト目になる。


「見、見てたわよ……途中まで……」


 アドの責める瞳にまごまごしながらも私は答えた。


(うう、またやってしまった)


 アドの家庭教師なのに、アドの鍛錬を見ていないなんて失格だ、と反省する。


「でもアド、こんなに剣の腕が良かったなんて! 今日は見られて良かった!」


 見てない部分もあったけど、アドが剣術を努力して磨き上げ、凄いことは伝わった。


「連れてきてくれてありがと」


 私はアドに笑顔でお礼を言った。隊長さんとアークとも再会出来て良かった。


「お、おう……」


 アドは照れくさそうに顔を逸すとそう言った。機嫌を直してくれてホッとする。


「じゃあ、今後の対策を隊長さんと話すから」

「はっ?」


 目を点にするアドをひとまず置いといて、隊長さんに顔を向ける。


「良いですか? 隊長さん」

「俺は良いけど……」


 何故かはっきりしない隊長さんはアドに視線を向けた。


「俺も行く」

「だよな」

「えっ、剣の鍛錬は?」

「終わった」

「まあミュー嬢、アドのことなら本人も立ち合ったほうが……」


 それもそうか、と隊長室に私たちは場所を移し、今後のことを話し合った。


☆☆☆


「試験に向けて良い対策が立てられたわね!」


 帰りの馬車の中、私は向かいに座るアドに笑顔で言った。


 魔法と剣術を交えた実践形式の試合が入団試験なので、アドの魔力のコントロールをみっちり勉強しつつ、騎士団にも通い、試合形式で剣術も鍛え続ける計画になった。


(後は魔法も使いつつ、剣も使う練習が必要だけど……)


 そればっかりは私も騎士団も相手が出来ない。どうしたものかと、うーんと頭を唸らせていると、アドが不機嫌そうに言った。


「お前……アークと隊長とあっという間に仲良くなったよな」

「え? そう見える?」

「嬉しそうだな」


 アドの言葉にニコニコと答えれば、増々彼の機嫌は悪くなる。


(う……仲間に近付かれて嫌なのかな? やっぱ難しい年頃……)


「……お前、二つしか違わねえのに俺を子供扱いしすぎじゃね?」


 私の心を読み取ったかのようにアドが言う。


「ええっ!? アドだって私のことおばさんって言ったじゃない!」


 どきりとしつつも、私も反撃をする。するとアドは俯いてしまった。


「アド?」

「………………たよ」


 心配して彼を覗き込めば、ポソリとアドが声を漏らす。


「……悪かったよ。ミュリエルはおばさんじゃない。あの時は俺も魔法省の人間だからって警戒しすぎた」


 アドのあまりにも素直な言葉に、私は目を丸くして思わず固まってしまった。


「んだよ!」


 そんな私の態度にアドは頬を赤くしてそっぽを向いてしまう。


 そんなアドが可愛いなあ、と私は思って、つい笑みがこみ上げる。


「ごめん、ごめん! 出会った時とは変わったなあと思って、嬉しくなっちゃった!」


 笑う私を、顔はそのまま目線だけ動かしてアドが言う。


「お前は変わらないよな」

「出会ってまだ数日だよ?」


 嬉し笑いで目尻に溜まった涙を拭きながらアドを見つめる。


「そうじゃなくて……俺が第二王子だと知っても、お前は変わらなかった」


 アドは未だにこちらを見ないまま、窓の外を見ながら言った。


(ああ、そうか……)


 アドは王族だからと寄ってくる人たちに心を許せないまま、どれだけの時を過ごして来たのだろう。そんな中、見つけた居場所も王族だからと否定され。


 そう思うと、アドのことが愛おしく感じた。


「アドはアドだよ。王族とか関係ない。私の大切な生徒だから」


 胸の中に湧き上がるその気持ちを見ないように、でも抱き締めるように言った。


 アドはようやくこちらを見たかと思えば、泣きそうな表情をしていた。


「王族相手は不敬だって言ってたくせに」

「そっれは……、アドのことを知る前だったし?」


 最初に出会った時の話をむし返され、ごもごもと言い淀んでしまう。


「ははっ……! やっぱミュリエルは令嬢らしくないな!」

「それって褒めてる?」


 泣きそうな表情が笑顔になりホッとした私は、アドに向かって頬を膨らませた。


「褒めてる」

「そっか……アドも王子様っぽくないよ」


 笑って言うアドに高鳴る心臓を誤魔化すように、私も返した。


「それは褒めてるのか?」

「……褒めてるよ」


 お互い顔を見合わせて、笑う。


「ミュリエル、試験に受かったら俺に褒美をくれないか」


 ひとしきり笑った後、アドが真剣な顔で言った。


「いいけど……私、あんまりお金ないよ?」


 可愛いこと言うな、と思いつつ、本当に薄給のためビビる。


「大丈夫だ。金はかからない。お前が差し出せる物だ」

「それって何――――」


 聞こうとした所で、どっくん、と私の心臓が破裂しそうなくらい鳴った。


 アドにそれ以上聞けないよう、唇を彼の指で押さえられたからだ。


「さっきも言ったが、覚悟しておけ?」


 大人びた表情を見せるアドに、私はただ顔を真っ赤にさせて、頷くことも出来なかった。

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