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三十五歳  作者: 青山えむ
9/10

9話 夕方の色

 ずっと気になっていたことがある。日曜日の夕方は、いつも同じ色をしている。落ち込んでいるときも喜んでいるときも。子どもの頃に見た色と変わらない。夕焼けの色だけれども、感情も含んでいる不思議な色。

 季節が違うのに、どうして同じ色なのだろう。ああそうか、冬は家にいるから家のなかの色を見ていただけだ。それ以外は切ない色をしている。

 テレビからも同じ音が聞こえる。番組のテーマソングだ。〇〇症候群、なんて単語もあったな。


 そうか、落ち込んでいても喜んでいても、夕方の色は同じなのだ。答えは見つからないけれども、ヒントに思えた。


 仮説をたてる。気持ちは一週間でリセットする。辛いことも哀しいことも、面白いことがあっても「日曜日の夕方」は同じ気持ちが甦る。

 土日の休日は楽しみだ。それが終わる日曜日の夕方を、どう乗り越えるか。そこを上手く使いこなせると月曜日、いや「明日から仕事だ」の憂うつな気持ちもコントロールできるのかもしれない。


 六月の末からは、バーゲンの時期だった。ボーナス支給を見込んでの日程だろう。私もまんまと乗せられる。

 なんとなくデパートに出向いてしまう。本当は化粧品を買うのだと、言い訳のような理由を持ちながら。


 デパートで可愛い服を見つける。裾が広いスカート、レースのついたブラウス、水玉のワンピース。

 けれども最近「いつ着る?」が強くなっている。

 お店で見た時は「可愛い」と思い試着する。まあまあ似合っている気がして購入する。けれどもいざ休日になると「私には似合わない」そう思い、買っても着ない服が増える。着る勇気がない。一人で外出して着飾って、なんだか恥ずかしい気がして着ることができない。


 いつも無難な服装で外出してしまう。バーゲンで買った可愛いワンピースはハンガーにかけて、ハンガーラックにつり下げっぱなしだ。肩のところに埃がかぶっている。


 ぽっちゃりしている友達は、堂々とノースリーブの服を着ているし。あの人の彼女は量販店で販売している大きいサイズの服だとすぐに分かる服を毎回着ている。モデル体型の友達は、古着のジーンズに可愛らしいワンピースを合わせて着ている。

 みんな堂々としていた。むしろ私が、なにを気にしているの? と言われているみたいだ。


「幸せになりたいから」


「せっかくなら楽しく生きたい」


 いつも笑顔でキラキラしている女子は、そんなことを言う。

 そんな漫画みたいな台詞で、そこまで頑張れるものなのか。ああ、確かに、頑張っているのだ。自分磨きを。だからあの子たちはキラキラしているのだ。みんな仕事も恋もこなしている。


 私には無理だって。頑張ると面倒なことも付随してくる。私には無理だから、このまま今まで通り生きれば面倒なことは増えない。

 私は社会のルールを守っているし犯罪には無縁だ。税金も納めているし他人と争わない。どこにも問題はないはずだ。そしてこれは、言い訳にすぎない。


 本当は、周りとの違いに苦しかった。どうして私はみんなと同じ「当たり前」ができないのか、知らないのか。自分を貫く勇気も覚悟も持っていない私は傷つかないように自分の本音を避けてきた。

 趣味が多いことで、紛らわしてきた。わらにもすがる思いだった。「当たり前」ができなくて苦しく情けなくて涙で枕を濡らすこともあった。


 なにを基準にしたらいいのか分からなくなったときに、高校時代のクラスメートに偶然再会した。




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